前田建設工業株式会社 代表取締役社長 前田 操治
1997年前田建設工業入社。2002年6月取締役、常務執行役員等を歴任し、2016年同社代表取締役社長(現職)、2021年10月インフロニア・ホールディングス取締役会長(現職)に就任
前田建設工業株式会社 代表取締役社長 前田 操治
1997年前田建設工業入社。2002年6月取締役、常務執行役員等を歴任し、2016年同社代表取締役社長(現職)、2021年10月インフロニア・ホールディングス取締役会長(現職)に就任
2024年3月期の前田建設単体の決算は、通期目標を大幅に上回り、売上総利益、営業利益ともに過去最高を達成しました。資材価格や労務費が上昇基調にある中で好調を維持できている背景には、当社が請負事業のコスト競争に依存しないために約10年以上前から取り組んできた受注規律の強化と、プロジェクトの上流から参画して早期から事業主とプロジェクトを一緒に作り込むという戦略が実を結んでいると感じています。その結果は、工事損失引当金が業界内でも圧倒的に少ないという点にも表れています。
これは、健全な危機感を持ちつつ、中長期的な視野と戦略的な思考に基づき、全社で事業改革や意識改革に取り組んできた成果であると確信しています。
特に、土木事業での難易度の高い設計変更や施工効率化・工期短縮による利益拡大の貢献と、建築事業での大型の再開発案件や、付加価値を創出できるような上流からの作り込みによる利益率の向上が今期の業績に寄与してくれました。
脱請負事業においては、当社はインフロニアが発足する前から脱請負を宣言して10年以上がたち、土木・建築に並ぶ第三の新たな収益基盤として、長年にわたり戦略的に取り組んできた成果が目に見える形で実り始めています。
脱請負事業の柱は、インフラ運営事業と再生可能エネルギー事業です。
インフラ運営事業では、下水道PPPの先駆けとなる「三浦市下水道コンセッション」が2023年4月から運営を開始した他、「国立競技場運営事業」、「豊橋市多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」、「富山市総合体育館Rコンセッション事業」を受注しました。
自治体のインフラに関する課題解決を行う地域事業推進においても、国交省のインフラ運営等に係る民間提案型「官民連携モデリング」業務をさいたま市で開始しました。利用料金を徴収しないインフラにおけるビジネスモデル検討を行い、他自治体への展開や、AP(アベイラビリティペイメント)への進化手法を構築中です。
再生可能エネルギー事業では、大洲バイオマス発電所の建設工事が完了し、営業運転を開始しました。発電出力は 5 万kW、年間発電量は約 3.5 億 kWh を計画しており、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、環境負荷の低い再生可能エネルギー由来の電力の普及拡大と地域経済の発展に寄与してまいります。
インフロニアが発足して約3年、グループ各社との連携が強化され、営業や施工、技術開発、情報セキュリティ、グループファイナンスといった各種の施策を円滑に運営できるようになってきました。
インフロニアグループ全体での営業協力体制の構築は、新規受注の増加に寄与しただけでなく、官民連携プロジェクトに関する自治体とのパイプラインの拡大にもつながっています。
前田道路とともに入札に参加した豊橋市のアリーナBT+コンセッション「豊橋市多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」を2024年6月に受注するなど、グループシナジーを活かした提案の幅の広がりを感じています。その他、環境配慮型のアスファルト混合物「LEAB(レアブ)」導入によるCO2排出量削減の取り組みに協力していますし、2024年1月に発生した能登半島地震での災害復旧活動では連携して迅速に対応することができました。前田製作所とはトンネルのリニューアル工事に特化した機械の技術開発などで連携を進めています。
脱請負事業のもう一つの柱となる再生可能エネルギー事業は、これから日本風力開発とのシナジーが期待でき、より一層開発を加速できるでしょう。開発が進むと、付加価値が向上した案件をセカンダリー市場へ事業譲渡するという選択肢を持つことができ、脱請負事業の収益基盤の確立に繋がります。また、こうした資本のリサイクルによる付加価値の創出は、業界の他社にはない前田建設の強みと言えます。
建設業でも法令による残業時間の上限規制が厳格化する2024年問題が本番を迎え、現場に対する工期はもちろん原価や施工体制への影響が懸念されていることから、さらなる労働環境改善が求められています。依然として残る過重労働の発生リスクに対して、上司をはじめとした責任者がリアルタイムで労働時間を把握するとともに、各々の事例に対して改善策を検討しています。
そのような中で、上司力の強化が当社の人材戦略の鍵だと考えています。会社としての改革や若手の人材育成に関する取り組みが進む中で、上司に求められる知識や能力のレベルは今まで以上に高くなっています。現役の上司のみならず幹部候補や中間層を対象に、上司に求められる知識や能力、責任、判断力をしっかり教育する機会を提供し、ハラスメント防止はもちろん人材を育てていくための土台づくりを行っています。
ダイバーシティの取り組みも進めています。女性のキャリア形成支援の一環として、女性特有の健康課題についてのセミナー開催やフェムテックサービスの導入を実施しました。社員の育児支援については、2022年4月に有給の「育児休暇」制度を新設し、子女が満1歳に達するまでに20日の取得を必須としました。結果として、男性社員の育児関連休暇を含む育児休業取得率は当初の約1割から約8割まで上昇しています。
担い手確保の問題については、当社の協力会社会である前友会とともにリクルート、人材育成に加えて、現在増えている外国人就労者のマネジメントについて取り組んでいます。一方、労働人口が減少する中で、生産性向上に取り組む必要性も感じています。施工プロセスの見直しや施工生産性向上のための技術開発などの取り組みを一層進めていきます。
建設業において、気候変動への対応は大きな課題だと認識しています。社会全体のカーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー事業に注力していくことは必要不可欠です。前田建設は、全社における非化石証書の導入に加えて、圧倒的にインパクトが大きい建物運用段階でのCO2排出に対して、上流である設計段階の取り組みをお客様に提案することで、建物のライフサイクル全体でのCO2排出量削減に貢献します。その他、ZEB・ZEH-M※などの省エネルギー技術や木造建築にも挑戦しています。
前田建設のイノベーションの拠点であるICI LabのEXCHANGE棟は、ZEBを実現しただけでなく、国際的な建築の環境性能評価システム「LEED V4 BD+C New Construction」の最高評価となるプラチナ認証を、国内第一号で取得しました。その他、環境に関するさまざまな賞を受賞しており、前田建設の省エネルギー技術のモデルルームとなっています。
また、昨年から蓄電池事業にも取り組み始めており、現在2つのプロジェクトを立ち上げているところです。今後市場が拡大することが見込まれるため、引き続き挑戦していきたいと考えています。
※ZEB・ZEH-M:Net Zero Energy Building & Net Zero Energy House Mansionの略称。年間の一次エネルギー消費量が正味またはマイナスの建築物・住宅のこと。中期経営計画「NEXT10 2nd Stage」の最終年度である今年は、「攻守兼備」をテーマに掲げています。業界内外に先駆けた取り組みを実施する「変革に挑戦する姿勢」(攻め)として進める一方で、風通しの良い会社としての組織づくりに注力し、会社全体で多様な問題・課題解決に取り組む「持続可能な体制構築」(守り)に取り組みます。
特に、「守り」については以前から問題となっていた担い手不足がいよいよ顕在化したことに加えて、2024年問題が本番を迎えたことから現場へのプレッシャーが高まり、利益面、品質管理面、安全面などにおいて潜在的なリスクとなっています。課題を一事業所で抱えることなく、全社の知見をもって解決に取り組みたいと考えています。
前田建設では、創業以来請負に取り組んできましたが、この本業をさらに深化させるという方針は変わりません。請負で培ったエンジニアリング力を軸として、時代のニーズに応え社会課題を解決する脱請負の取り組みをさらに加速させていきます。
脱請負に取り組み始めて10年以上がたち、ようやく社内に浸透してきた実感を得ています。自治体における官民連携プロジェクトにおいては、それぞれの地域特有の課題や将来ビジョンを把握しながら、上流段階において新たな価値を提案、創造する必要があります。このようなCSVの実践をそれぞれの支店が主体となって推進してもらうため、当社は数年前から本支店に地域事業推進の専門部署を設置して官民連携(PPP・PFI)の強化に取り組んできました。設置当初に比べて自治体からのニーズは高まっており、これからの市場の盛り上がりに期待しています。
現在国内のコンセッション案件は約30件で、そのうち3分の1を当社グループが参画しています。コンセッションよりは小規模ですが、公共施設の包括管理にも当社グループ会社のFBSやJMと一体となって取り組むことにより、幅広く自治体のニーズを吸い上げて中長期的な案件創出を目指しています。
日本企業が目指すべきは、価格を下げてシェア拡大を図るのではなく、付加価値の高い提案で収益を確保し、ステークホルダーに分配していく事業モデルへの転換だと思います。現在、当社は請負事業においても上流から入り込み、脱請負思考で付加価値提案を行うという営業を強化しています。請負と脱請負のバランスを取り、グループ中核企業としての責任を果たしてグループの成長に貢献していきます。
来年4月から始まるNEXT10 3rd Stageでの加速度的な成長に向け、「攻め」と「守り」を兼ね備えた「攻守兼備」の姿勢で、果敢に挑戦してまいります。
前田道路株式会社 代表取締役社長 今泉 保彦
1981年前田建設工業入社。2010年から取締役、執行役員等を歴任し、2020年6月前田道路代表取締役社長(現職)、 2023年6月インフロニア・ホールディングス取締役(現職)に就任
前田道路株式会社 代表取締役社長 今泉 保彦
1981年前田建設工業入社。2010年から取締役、執行役員等を歴任し、2020年6月前田道路代表取締役社長(現職)、2023年6月インフロニア・ホールディングス取締役(現職)に就任
当社の事業は道路工事や建物の外構工事を行う建設事業と、アスファルト合材の製造・販売を行う製造・販売事業の2つがビジネスの柱となっています。全国に約200箇所の拠点があり、地域に根付いた営業活動を展開しています。
道路業界は原油価格の高騰や為替の影響等により資材価格が高騰し、非常に厳しい状況で、更に簡単には価格転嫁できないという問題があります。また、アスファルト合材の出荷量は年々減少しており、30年前は8,000万トンあった出荷量は2023年度には3,600万トン台となりました。出荷量減少に伴い、日本全国のアスファルト合材工場もピーク時は約1,700工場ありましたが、現在は約1,000工場にまで減少しました。一方で道路の新設工事は減少するものの、インフラの老朽化に伴い維持修繕工事は増加していくと見込んでいます。
当社を取り巻く市場環境が厳しい中、2024年3月期決算はグループ戦略が寄与して、売上高2,560億円、営業利益162億円と前期比で増収増益を達成しました。この結果は約2年前から実施してきた売上高から『利益重視』の経営を意識して取り組んできた大きな成果だと認識しています。具体的には、建設事業は受注時利益率の確保、製造・販売事業は原材料費高騰分の価格転嫁をタイムリーに行ったことが奏功しています。
経営の基本ではありますが、『利益重視』の経営を意識するには理由があります。2020年以前の道路業界は非常に好調でした。当時、当社の建設事業は利益よりも売上重視の考え方が浸透しており、製造販売事業は出荷量を意識していれば自然と利益を確保できる現状でした。ただ、好業績の要因は外部環境が良かったからということはあまり理解されていません。言葉の表現に注意が必要ですが、本当に当社の実力だけで勝ち取ってきたものではなく、事業そのものの成長も小さかったのではないかと分析しています。
その後、2022年の当社はストレートアスファルトの価格高騰、為替の影響により非常に厳しい状況に陥りました。業界的にもアスファルト合材の価格転嫁は非常に難しい中、当社は他社に先駆けて価格転嫁を進めました。現場からは価格を上げてシェア率が低下するのではないかと懸念の声が上がっていたことは事実です。しかし、価格転嫁できない企業は衰退することを何度も現場で伝えました。結果として、シェア率はキープすることが出来ています。単に値上げするだけでは顧客は離れない事を経営側も現場も理解する事が出来ました。シェア率が落ちなかった理由は当社の強みであるお客様との信頼関係にあると思います。合材の品質はもちろん、デリバリー時間の厳守や工場での挨拶など日頃の各現場での小さな工夫が大きな成果として現れました。当社の付加価値が認められ、価格転嫁を理解していただけることを実感しました。
また、インフロニアグループとなり、当社にとってプラスの影響が多くあります。前期はインフロニアグループに加入前と比較して前田建設からの発注が2倍になりました。当社の工事案件は官庁工事1割、民間9割の割合です。長期的な目線で考えたときに官庁工事の割合はもう少し増やしたいと考えています。2023年3月にNEXCOの工事で39億円の案件、4月には58億円の案件を受注いたしました。この金額は当社にとって過去最高の受注金額となっております。前田建設の高い技術提案力やノウハウを学んだ大きな効果が現れました。民間工事案件においても前田建設のお客様を紹介して頂いています。逆に当社は全国に約200カ所ある拠点を活かして営業ネットワークをグループ各社に共有しています。
引き続き、地域に根付いたネットワークや高い品質力といった当社の強みを活かしてインフロニアグループ全体の業績に貢献してまいります。
外部環境に経営が大きく左右される中、当社の持っている強みを活かしつつ、長期的に成長を続ける為に、建設・製造販売の2つの柱に次ぐ第3の柱を確立させる転換点にいます。原油価格や為替は今後どのように変化していくのか予測が難しいことは当然です。そのような環境下で国内の建設事業は修繕工事が増加するものの新設工事は横ばいだと予測しています。合材価格の値上げをするにも限界があります。また建設事業も競争の下で利益率を確保していくことはある程度限界があります。そのような環境で今後の当社の成長には建設事業・製造販売事業に続く第3、4の柱が必要となります。
2023年には動植物油脂の廃棄物から重油の代替燃料を製造する日本バイオフューエル株式会社を設立し、バイオ燃料の製造を開始しました。現在は当社の排出するCO2排出量の削減にとどまっていますが、バイオ燃料をいずれは外部にも販売できるまでの事業に育てたいと考えています。また、インフロニアグループのCO2排出量のうち、約95%が当社のアスファルト合材の製造時に発生する現状です。道路業界が及ぼす環境への影響は大きく、カーボンニュートラルの取り組みが急務となっており、バイオ燃料の使用を拡充させることで持続可能な環境づくりに向けてグループを牽引する役割を担いたいと思っています。
2つ目はPPP/PFI事業、包括管理事業です。インフロニアグループが一体となって総合インフラサービス企業の実現に向けて力を入れている事業です。今期は前田建設とともに入札した豊橋市のアリーナBT+コンセッション案件に参画しました。当社の強みを活かせる案件が今後も拡大していくと見込んでいます。
その他M&Aも含め、長期的な目線で経営に寄与していく柱を確立させていきます。
当社が継続的に成長する為には、積極的な投資が欠かせません。設備の投資、技術開発の投資、人への投資を行っていきますが、大きな転換点にいる当社は特に『人への投資』に力を入れます。『利益重視』の経営を意識するのは、投資を積極的に行っていきたいからです。
まずは、2024年の残業規制に対する取り組みです。残業規制が始まる事は以前から分かっていたので、前もってワーキンググループを組成し、手立てを打ってきました。今期は基幹システムを新たに導入する予定です。当社のシステムは前田建設の基盤システムに比べるとまだ劣っている状況でした。現場で時間がかかっている作業は安全書類や見積作成でしたので、この作業負担を軽減したいと思います。当社は年間6万~7万件の案件がありますので、この見積をAIでできないかも検討を進めています。また、施工機械の自動化や無人施工化、工場の無人化などをテーマに研究を進めています。業界的に今までは完全週休2日は難しい業界でしたが、労働組合とも連携を図って今後は先頭に立って休みが取れる業界に変えていきたいです。
次にインフロニアグループとの人材交流や挑戦する場を積極的に提供したいと考えています。さらに、キャリアディベロップメントシステムを導入し、社員一人一人が能力を最大限発揮できる環境整備を進めていきます。我々はまだ社員の持っている能力や日頃どういうことを考えているかを知らな過ぎると思っています。それぞれのキャリアや日頃の悩み、家庭の事情等はこれからしっかりデータベース化していきたいです。働きやすさに繋がっていくと思っています。当社は特に単身赴任の社員が多い現状です。家から出社して仕事が出来るパターンがやはり最適ではないかと認識しております。全ての社員は難しくても、将来的にはある程度、地元に根差した配置に変えていきたいと思います。また、今期はキャリア面談を人事部が中心となって行っていきます。データベース化した後は、体系的な研修プログラムを作っていきます。現在の研修プログラムは見直しが必要です。
また、現状の福利厚生は建設業界・舗装業界の中で比較すると充実している方ではありますが、これは今までの時代に合わせた内容であり、これからは他社で先行しているような制度を勉強しながら導入していきたいです。
我々が目指す道路業界ナンバーワン企業とは、単に業績だけではありません。働きやすさにもこだわっています。誰もが活き活きと活躍できる企業を実現させ、魅了的な道路会社=前田道路というイメージが付くくらいのブランド力の確立を目指しています。その為には現状に満足せず、常に新しいことに挑戦する姿勢を持ち続けたいです。
株式会社前田製作所 代表取締役社長 塩入 正章
1981年前田製作所入社、2008年から同社執行役員 産業機械本部機械営業部長等を歴任し、2013年4月同社代表取締役社長に就任(現職)。 2021年10月インフロニア・ホールディングス取締役(現職)、執行役設備投資戦略担当に就任
株式会社前田製作所 代表取締役社長 塩入 正章
1981年前田製作所入社、2008年から同社執行役員 産業機械本部機械営業部長等を歴任し、2013年4月同社代表取締役社長に就任(現職)。 2021年10月インフロニア・ホールディングス取締役(現職)、執行役設備投資戦略担当に就任
設立から60年以上、建設機械を中心に様々な機械や技術をお客様へ提供してきた前田製作所。かにクレーンやクローラクレーンをはじめとする自社製品の開発・製造に加えて、建機メーカー「コマツ」の総販売代理店として長野・山梨・愛知・三重の4県で事業を展開しています。
2023年度は新製品の林業用フォワーダやバッテリー仕様のナックルブーム(ブーム屈折式)かにクレーンの発売など、製品拡充による売上拡大に積極的に取り組んできました。業績は前年比で増収増益を達成し、売上高・利益率ともに過去最高を達成することができました。インフロニアグループの総合KPIである付加価値額においても過去最高額となり、以前から社員の処遇改善にも力をいれてきた成果を感じています。
▶総合KPIについては冊子版統合報告書p.19をご覧ください
売上高はコマツ商品も自社製品も安定的に伸ばすことができました。特に自社製品のクローラクレーンの販売が好調だったことが利益率向上に結び付きました。数年前は半導体関連の部品の供給不足により、自社製品が製造できない状況が多かったのですが、半導体不足が徐々に緩和に向かい、入手困難な部品は自社で内製化することで供給チェーンの混乱に左右されない環境を整備し、売上高を拡大することができました。利益面では、物価上昇によるコストの増加を価格に反映させることができたことが大きな要因でした。元々クローラクレーンは国内市場において9割という高いシェアを獲得していましたが、価格転嫁後もそれは変わらず維持できています。
今後さらに当社が成長していくためには海外事業に力を入れる必要があると思っています。アメリカ合衆国のヒューストンに子会社MAEDA AMERICA Inc.を設立して2年が経ち、販売店も増えて順調に機能し始めています。今後更なる海外市場でのシェア向上を図っていきます。
今期の見込みとして、建設機械業界の売上は公共投資に比例してくる特徴がありますので、国内市場は堅調に推移すると見込んでいます。
前田製作所はお客様の現場や要望に応じて設計した個別受注製品の製造からメンテナンスまでワンストップで行えることが強みです。インフラ関係の整備には様々な機械が必要とされ、特に現場に合わせた一品一様の特殊な機械が求められることが多くありますので、そういったニーズに応えることができると思っています。ホールディングス設立以前から前田建設・前田道路にも個別受注製品の提供を行ってきました。最近では、前田建設から依頼を受け、トンネルの壁面パネルの設置を行う特殊機械を受注し納めています。
当社はニッチな製品を少量で製造することが多いですが、受注を受ける際には、利益だけでなく、今後の技術活用のためにも次に使える技術を残せるかどうかを重視するようにしています。設計段階の不具合も含め、開発データを蓄積し部内共有することで、新製品の設計に役立てるだけでなく、開発工期の短縮も目指しています。
また、コマツとの関係性も当社の強みの一つです。前田製作所はコマツの国内トップクラスの総販売代理店として販売・レンタル・サービスまでのトータルサポートを行っています。コマツとは長年の繋がりがあり、代理店事業と人事交流を通じて強い信頼関係があります。営業やサービス技術の共有だけでなく、OEMや特殊な機械の開発・製造を任されるなど、技術的な連携も築いてきています。
生産性向上と人材確保のために、働き方改革や女性活躍推進に積極的に取り組んでいます。前田製作所はものづくりを行っているため、生産性向上は重要な課題ですし、人手不足が問題視されている中で、今後も成長していくためには人材確保が何よりも重要だと認識しています。
働き方に関しては、時間外労働の管理を徹底して行っています。数年前から毎月の経営会議で時間外労働の状況を報告し、見える化を図っています。特別異常な数値は出てきておらず、効果的な管理が行われています。また、サービス関係の取引先では土曜日も稼働していることがありますが、前田製作所は完全週休二日制ということをしっかり伝えて理解していただくように努めています。建設業界でも週休二日制の動きが出てきていますので、変えていくには今がチャンスだと思っています。
女性活躍推進の具体的な取り組みとして、昨年、全社の女性社員が参加した女性研修会を開催しました。女性管理職や育児休業、子育てと仕事の両立などの経験を話してもらい、女性が将来のキャリアプランをイメージできるような機会を設けました。前田製作所は営業所に女性社員が一人だけという拠点も多いため、情報交換ができて非常に良かったという声を聞いています。今後さらに女性社員の活躍の場を増やしてもらおうと、今まで経験していなかった仕事を任せていくことも始めていますので、積極的に挑戦してもらいたいと思っています。
女性のキャリア開発に限らず、人材育成においてはやはり社員にやりがいを持ってもらうことが重要です。どうやってモチベーションをあげてもらうかは常に考えていますが、給料などのインセンティブだけでなく、自分自身が楽しんで仕事に取り組んでもらうことが一番だと思っています。まだ仕組みづくりは十分とはいえませんが、社内溶接コンクールを開催し、立候補制で参加してもらうなど、自ら挑戦する姿勢を促す取り組みを行っています。
ホールディングス体制に移行してからは、インフロニアグループ全体での合同入社式を行うようになりました。前田製作所の新入社員は10~20名程ですが、200名規模のグループ同期とともに入社式や研修を行い、グループの規模感を感じてもらうことで、大きな会社に入ったのだとモチベーションが上がっているのを感じています。リクルートについても、インフロニアグループという大きい組織の中にあることをアピールしていきたいです。
今後の成長戦略として、まずは海外での市場の拡大を図ります。自社製品のかにクレーンやクローラクレーンは、国内市場において8~9割のシェアを獲得しています。このままいけば国内市場は飽和してしまうため、今後は海外市場に注力する必要があります。
現在、子会社のMAEDA AMERICAは製品を直接販売するのではなく、販売店を通じて販売を行っています。設立から2年間でアメリカ国内の販売店を9社まで増やすことができました。今後の北米での売上に大いに期待しています。ただし、現在の販売店戦略では大手レンタル会社への販売が困難な状況です。そのためMAEDA AMERICAから直接大手レンタル会社への販売を行うように動きだしています。
成長戦略の二つ目は市場ニーズに応じた製品開発です。海外市場ではEVやバッテリー駆動の機械の需要がとても高く、特にヨーロッパはカーボンニュートラルの推進が進んでいるため、前田製作所もバッテリー機種の開発を進め、対応しています。2024年4月にフランス・パリで開催された「INTERMAT2024(国際土木建設機械見本市)」では、新機種のバッテリー仕様ナックルブームかにクレーンを展示しました。来場者からは非常に好評を得ることができ、手応えを感じています。今後海外市場で競争していくために、電動化製品の拡充や省人化を実現する新製品の開発が不可欠です。マエダ製品の優位性は、高い操作性や精度にありますので、アタッチメントオプションの開発による付加価値の提案など市場競争力を高めていきたいと考えています。
また、国内市場においても、前田製作所は以前から製品による現場の省人化・効率化に貢献してきました。例えば、近年当社が力を入れている林業機械の分野では、国内の林業は人手不足という課題があり、その解決に向けて省人化に貢献できる機械を販売しています。具体的には、伐採した木を集める「油圧式集材機」や、集めた木を運搬する「フォワーダ」といった林業を支える機械を提供しています。林業に限らず、省人化や効率化はあらゆる業界のお客様から望まれている課題であり、今後はさらに力を入れて取り組んでまいります。
前田製作所が扱うコマツ製品の「ICT建機」は、自動制御機能により生産性・安全性を向上させることができます。レンタル事業においても、ICT建機は今まで大規模な現場でのみ使用されていましたが、小規模な現場でも活用され始めています。前田製作所はお客様へ積極的にICT建機や機械のメンテナンス管理システムといったITツールをご提案し、効率化のお手伝いを行っています。
前田建設からは省人化及び安全上の理由からトンネル内の自動運転や遠隔操作の要望があり、共同での技術開発を進めています。前田建設の研究施設であるICI総合センターとも連携し、模擬トンネルでの実証試験も行いました。自動化・遠隔操作・電動化など、価値が見込まれる技術開発には果敢に取り組んでいきます。
成長戦略の三つ目は、グループシナジーの最大化です。ホールディングス体制に移行してからは、インフロニアグループ間での人との繋がりが強くなりました。以前に比べて情報が入りやすくなり、協働することも増えてきました。経営層だけでなく、現場レベルで情報交換ができるようになってきたという声もよく聞いています。様々な案件で共同技術開発も進んできています。先述した通り前田建設とは自動制御・遠隔操作などの開発に積極的に取り組んでいますし、前田道路が保有する機械を前田製作所が扱うシステムを使って包括的に管理することも試行しています。グループ内で情報共有することでさらに技術力が発展できるのではないかと期待しています。
また営業情報の共有化も進んでいますし、昨年11月に東京ビックサイトで開催された「ハイウェイテクノフェア2023」ではインフロニアグループとして、前田建設・前田道路・前田製作所の3社共同で出展を行い、グループの一体感が見えました。
今後さらに当社の製品や技術をグループ全体で活用してもらうために、事例集や紹介動画を作成しました。前田製作所からインフロニアグループ各社に対して、何を提供できるのかを現場レベルまで共有し、積極的に提案していく必要があると考えています。前田製作所の技術力やメカニック力を生かし、グループ各社が本当に使いたい機械や、整備してもらいたいものに対してしっかり対応していく。グループでの売上における前田製作所の割合を増やすことを目標に掲げ、全社で取り組んでいきます。