シナリオ分析によって特定した、主要なリスク・機会の財務影響評価および対応策を示します。
財務影響 | プラス | マイナス |
---|---|---|
大(100億円以上) | ||
中(50~100億円) | ||
小(50億円未満) |
気候変動はインフロニアグループの重要経営課題の⼀つであり、官民連携によるインフラの維持管理・修繕・更新や新規建設において、カーボンニュートラルの取り組みが加わった市場がより急速に拡大すると認識しています。当社グループは2050年までに温室効果ガス(以下、GHG)排出量を「実質ゼロ」とする目標を掲げ、気候変動への取り組みを強化すると共に、エネルギー使用の削減と効率化に取り組みを進めています。また、2030年温室効果ガス削減目標を「1.5℃水準」に更新し、2024年11月にSBTイニシアチブより認定を受けました。
スコープ | 取り組み内容 |
---|---|
スコープ1 | 施工の合理化や先進的な建設機械の使用 低炭素燃料の活用による削減 上記のような取り組みをその主体である協力会社とともに推進 アスファルト合材製造時の排出削減(フォームドアスファルト技術の推進、低炭素合材の販売) |
スコープ2 | 各事業所での省エネ活動 非化石証書等によるオフセット 再生可能エネルギー事業による気候変動対策のインフラ整備 アスファルト合材製造時の排出削減 |
スコープ3 | 【カテゴリ1:委託工事、購入資材】 資源循環と脱炭素の実現に向けて、ICIを中心としたオープンイノベーションにより技術開発を加速 インフラ運営事業のスコープ3排出量や資源循環率などの可視化・DXの推進により環境配慮調達を実現 【カテゴリー2:資本財】 アスファルト合材調達時、サプライチェーンでのGHGの削減に寄与 【カテゴリ11:自社施工建造物及び製品の使用に伴う排出】 新築と改修のW ZEBや木造・木質建築の推進等を通じて、環境と健康・生産性などの付加価値の顧客提案を推進 機械事業でのEV建機の拡充 |
当社グループは、2022年6月に「気候変動財務情報開示タスクフォース(TCFD)」への賛同を表明し、情報開示を実施しました。段階的に開示情報の拡充に努めています。リスクと機会を特定し、その対応策を進めることで自社の排出削減とレジリエンス強化及び事業成長の両立を目指していきます。
当社グループは、気候変動を重要経営課題のひとつと認識をしています。気候変動に関わる基本方針や重要事項については定期的にサステナビリティ委員会にて検討を行うとともに、取締役会の監督が適切に行われるよう体制を整えています。
当社グループは「2050年カーボンニュートラル」に向け、2030年にGHG排出量の削減目標を2018年度比40%削減としていましたが、取り組みを加速させるため新たな目標を掲げました。2021年度を基準年とし、2030年にスコープ1+2を45.8%削減、スコープ3を25%削減としています。この新たな目標は、2024年11月にSBTイニシアチブより認証を受けています。
当社グループは「2050年カーボンニュートラル」に向け、2030年にGHG排出量の削減目標を2018年度比40%削減としています。2023年度は、 ecole(エコール)
※1導入推進や再生可能エネルギー積極活用(非化石証書含む)等の取り組みにより、約274万t-CO2
※2(前年度より約28万t-CO2減少)となりました。また、目標に対しては、2018年度比 スコープ1+2 29.0%削減、スコープ3(カテゴリー1+11) 42.8%削減となりました。
エンボディードカーボン※3を評価する体制を強化しバリューチェーン全体の排出量削減を進めます。インフラ運営事業でも、サプライヤーやバリューチェーンのステークホルダー間でGHG排出量削減の実効性を高めるための情報交換と共有の仕組みをつくり、環境負荷削減のワンストップサービス構築を目指します。
※1 機械式フォームド技術を利用した低炭素(中温化)アスファルト混合物。
※2 スコープ1、スコープ2、スコープ3(カテゴリー1+11)の合計値
※3 建物の建設・改修・修繕・廃棄・リサイクル等、運用以外で排出されるCO2の総量。
インフロニアでは、報告内容に対する信頼性の確保のために、温室効果ガス排出量(スコープ1、スコープ2、およびスコープ3カテゴリー1、11)について、株式会社サステナビリティ会計事務所による第三者検証を実施しています。 今後も第三者検証を有効に活用し、継続的に精度向上に取り組んでいきます。
▶詳細はイニシアチブへの賛同・加盟/評価・認定の第三者検証報告書をご覧ください
リスクと機会の抽出は、当社グループ全体を対象に各事業会社の主管部門を中心に行い、その結果をサステナビリティ推進室で集約し、財務影響分析を行いました。このプロセスに基づき特定した主要なリスクと機会については、サステナビリティ委員会において検討した後、取締役会へ報告し、必要に応じてリスクの緩和・コントロールについて検討します。 さらに、この結果は四半期ごとに開催されるリスク管理委員会とも共有し、当社グループ全体のリスク管理体制の中で検討・管理しています。
気候変動におけるリスクと機会は、「脱炭素社会への移行の影響(主に政策面)」と「物理的影響(主に自然災害の発生)」に分けることができ、気候変動の緩和が進む「1.5℃シナリオ(進展シナリオ)」、気候変動の緩和が進まず物理リスクが最大化する「4℃シナリオ(停滞シナリオ)」の2つのシナリオで分析を実施しました。各シナリオの前提条件は、各国際機関等が公表している将来的な気候予測等を参照のうえ、短期~中期(2030年まで)、中期~長期(~2050年まで)を想定して検討を行っています。
設定シナリオ | 参照シナリオ | 概要 |
---|---|---|
1.5℃シナリオ (進展シナリオ) |
IPCC RCP1.9 IPCC SSP1 IEA NZE PRI RPS |
社会・経済・技術の革新による世界の持続可能な社会への移行は、著しく進展した。世界人口は安定的な増加傾向を維持している。経済的格差(貧富の差)は一定程度緩和され、各国政・統治も安定している。気候変動に対する各国の対策やグローバル規模の規制も厳格化が進み概ね足並みが揃っている。気象変化の影響は和らぎ、サプライチェーンの強靭性は維持され、早期技術革新、製造プロセスの改善により市場も安定している。石油由来のエネルギー価格は緩やかに下落する。国内においては少子高齢化が進んだものの、行政による労働市場の最適化対策等により、インフラセクターにおける人材確保も以前よりも容易となった。ZEB、ZEHが急速に普及し、環境に配慮した住生活への移行が進んでいる。 |
4℃シナリオ (停滞シナリオ) |
IPCC RCP8.5 IPCC SSP5 IEA STEPS PRI FPS |
社会・経済・技術の革新による世界の持続可能な社会への移行は、破綻している。人口成長は21世紀後半にかけて大きく減少。経済的格差(貧富の差)は著しく広がり、各国政・統治に大きな影を落としている。気候変動に対する各国の対策やグローバル規模の規制は足並みが揃わず、実効性を伴っていない。異常気象の影響に加え、国家間の紛争や緊張状態が頻発し、輸出規制やサプライチェーン断絶等が各地域で発生し、ほぼすべての建設資材価格の高騰を招き、価格変動は予測が困難となっている。石油由来のエネルギー価格は高騰する。国内においては少子高齢化の悪化に加え、対策不足により、労働集約型のセクターであるインフラセクターの人材確保が非常に困難である。ZEB、ZEHの普及は限定的で、環境に配慮した住生活への移行は進んでいない。 |
設定シナリオ | 想定される事業への影響 | |||||||
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持続可能な社会実現への移行 | 人口成長
動態 |
経済的格差 | 法規制・
税制 |
サプライ
チェーン |
建設資材 | 少子・
高齢化 |
ZEB、ZEH | |
1.5℃シナリオ (進展シナリオ) |
著しく進展する | 安定的な増加傾向を維持している | 一定程度緩和され、各国政・統治も安定している | 厳格化が進み概ね足並みが揃っている | サプライチェーンの強靭性は維持される | 早期技術革新、製造プロセスの改善により市場は安定している | 進行するものの、労働集約型のセクターにおける人材確保も以前よりも容易となる | 支持が急速に広がり、環境に配慮した住生活への移行が進んでいる |
4℃シナリオ (停滞シナリオ) |
持続可能な社会への移行は、破綻している | 21世紀後半にかけて大きく減少する | 著しく広がり、各国政・統治に大きな影を落としている | 足並みが揃わず、実効性を伴っていない | 輸出規制やサプライチェーン断絶等が各地域で発生する | ほぼすべての建設資材物価格の高騰を招き、価格変動は予測が困難となっている | 悪化に加え、対策不足により、労働集約型のセクターにおける人材確保が非常に困難である | 穏やかに広がり、住生活の変化は見られるものの、環境に配慮した移行は見られない |
シナリオ分析によって特定した、主要なリスク・機会の財務影響評価および対応策を示します。
財務影響 | プラス | マイナス |
---|---|---|
大(100億円以上) | ||
中(50~100億円) | ||
小(50億円未満) |
分類 | リスク /機会 |
内容 | 関連 セグメント |
財務影響評価(営業利益) | 関連する対応策 | |||||||||
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土木 | 建築 | インフラ | 舗装 | 機械 | 1.5℃
シナリオ |
4℃
シナリオ |
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2030 | 2050 | 2030 | 2050 | |||||||||||
移行 | 政策・法規制 | リスク | 炭素税の導入・引き上げによる、自社のCO₂排出に伴う税負担増加 | ■ | ■ | ■ | ■ | ■ | I | |||||
リスク | 電力コストの増加(電気料金への再エネ転嫁価格上乗せ等) | ■ | ■ | ■ | ■ | ■ | I | |||||||
リスク | 環調達先が、炭素税又は再エネ導入等の低炭素化コストを製品価格に転嫁した場合のコスト増(物流コスト増含む) | ■ | ■ | ■ | ■ | ■ | II,III | |||||||
市場 | 機会 | ZEB・ZEH、省エネ改修、木造建築の需要拡大、革新的建機(EV等)市場の拡大 | ■ | ■ | III | |||||||||
機会 | 低炭素材料・建材の普及・拡大 | ■ | 対応策Ⅰに計上 | 対応策Ⅰに計上 | I,III,IV | |||||||||
機会 | 再生可能エネルギー市場の拡大 | ■ | 中計に 織込済 |
中計に 織込済 |
III | |||||||||
物理 | 慢性 | リスク | 風水害等の増加による当社事業所、工場の復旧にかかるコスト増加 | □ | □ | □ | ■ | □ | II | |||||
リスク | 労働環境の悪化に伴い、人手不足が加速することによる採用コスト、外注コストの増大 | ■ | ■ | ■ | ■ | II,III | ||||||||
急性 | リスク | 災害復旧工事やインフラ補修工事が増加することに伴う、人材不足・重機不足による機会損失 | ■ | ■ | ■ | II | ||||||||
リスク | 自然災害の激甚化・頻発化に伴う保険料増加 | ■ | ■ | □ | ■ | II | ||||||||
機会 | 国土強靭化市場(インフラ維持管理点検等含む)の増加 | ■ | ■ | ■ | ■ | III,IV |
対応策 | 内容 | 関連 セグメント |
財務影響評価(営業利益) リスクに対する低減・回復 |
||||||||
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土木 | 建築 | インフラ | 舗装 | 機械 | 1.5℃
シナリオ |
4℃
シナリオ |
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2030 | 2050 | 2030 | 2050 | ||||||||
I | 自社のCO₂排出削減 |
事業会社各社の生産活動におけるCO₂削減 特に、前田道路のアスファルト合材製造時におけるCO₂の削減及びecole(エコール)等低炭素合材の販売増加
|
□ | □ | □ | ■ | □ | ※1 | |||
II | サプライチェーン全体での
脱炭素対応 |
|
■ | ■ | □ | ■ | ■ | ||||
III | カーボンニュートラル市場や 国土強靭化市場への対応 |
市場に対応するための施策の推進
|
■ | ■ | ■ | ■ | |||||
IV | 脱炭素/低炭素に関する
研究開発 |
脱炭素/低炭素に資する研究開発の推進
|
■ | ■ | ■ | ■ | ■ | ※2 |
本分析の結果、当社グループにおける戦略は、現時点において移行・物理的リスクのいずれにおいても、致命的な影響は見受けられないものと判断しました。
当社は、気候変動への対応として下記のような取り組みを実施しています。
アスファルト舗装工事におけるCO₂排出量の約8割は、アスファルト合材の製造段階で発生しています。この課題解決に向け、前田道路では廃食油とA重油の混焼や天然ガス活用などA重油使用量削減に取り組んでいますが、さらに一歩踏み込んだ施策として、運営子会社 日本バイオフューエル株式会社(以下、JBF)を設立、2023年度よりバイオ重油の製造を開始しています。バイオ重油とは、動植物性油脂を原料とする重油の代替燃料です。現在、このバイオ重油は前田道路の合材工場でA重油と混合させることで、GHG排出量削減に寄与しています。
原料としては、これまで有効利用が進んでこなかった植物油製造工場やBDF※製造工場から発生する油滓(ゆさい)や副生グリセリンなどを活用していることから、JBFの事業は資源循環にも寄与するものと考えています。
※ BDF:バイオディーゼル(Bio Diesel Fuel)の略。植物由来の油からつくられるディーゼル燃料で、軽油代替として使用される。
前田建設は「2050年カーボンニュートラル」に向け、建物のZEB、ZEH※1化を推進しています。
ZEBにおいては、新築、改修に応える「W ZEB」(ダブル・ゼブ)に取り組んでいます。自社実績案件では、社内関係部署によるコミッショニング※2WGを発足し、エネルギー消費量の調査・分析から、要素技術の改良・改善を行い、運用の最適化を目指しています。
ZEHでは、得意とする集合住宅建築においてZEH-M※1の設計・施工を推進しており、一般社団法人環境共創イニシアチブが公募する、ZEH-M普及の中心的な役割を担う「ZEHデベロッパー」(C登録)に登録認定されました。
KPI(2030年度目標)として、設計施工非住宅案件のZEB採用率40%を掲げています。今後もZEB、ZEHを推進していきます。
前田製作所は自社製品の開発で培った不整地走行の技術を応用し、2023年9月1日に走行集材機械「フォワーダ」を発売しました。過酷な林内現場における作業者の安全性と快適性に配慮した設計になっており、林業分野が抱える人手不足や機械化の遅れ等の課題の解決が期待されます。カーボンニュートラルの実現に向け世界有数の森林国である日本の森林整備をサポートし、カーボンニュートラル実現へ貢献して参ります。
前田道路は、アスファルトをフォームド(泡)化し混合性・締固め性を向上させることで、従来よりも低い温度でアスファルト合材の製造・施工を可能にするフォームドアスファルト技術によって、骨材加熱に用いる燃料使用量を減らし、CO₂排出量の削減に貢献しています。当社のフォームドアスファルト混合物「ecole(エコール)」は、従来のフォームドアスファルト技術の性能をさらに向上させ、混合性や締固め性などの効果の持続時間を延長することが可能となっています。
環境への負荷を軽減し、持続的発展が可能な社会を形成することに貢献すべく、事業活動における環境に配慮した工法、製品、製造工程の改良や合理化を推進するとともに、新工法や技術開発に取り組んでいきます。
マイルドグースは、グースアスファルト舗装(以下、グース舗装)の簡易補修材です。グース舗装は、橋などに施工されることが多く、優れた防水性とたわみ追従性があることが特徴です。
施工の際は、クッカ車と呼ばれる専用混合車で 220~260℃に加熱攪拌し施工しますが、マイルドグースは車両および加熱が不要で、局所的な破損等小規模な補修にも対応可能です。常温で補修ができるグース舗装技術は他社にはない前田道路独自の技術です。
前田製作所では、カーボンニュートラル実現に向けて、CO₂排出量の削減に寄与する電動化製品の開発とラインナップの拡充に取り組んでいます。
現在はバッテリー仕様の「クローラクレーンCC1485」をドイツのDEUTZ社と共同開発中です。2022年10月には、ドイツのミュンヘンで開催された建設機械の展示会にコンセプトモデルを展示しました。
今後は早期量産化と市場導入にむけて、引き続き開発を進めていきます。