INFRONEER Holdings Inc. INFRONEER Holdings Inc.
設立から1年、統合報告書発行記念対談

「総合インフラサービス企業」
を目指して(上)

総合インフラサービス企業に向けた進捗
円谷 昭一
一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
岐部一誠
インフロニア・ホールディングス株式会社
取締役代表執行役 兼 CEO
前田建設工業株式会社 代表取締役副社長
髙木 敦
インフロニア・ホールディングス株式会社
社外取締役

① 我々がホールディングス体制で目指していること
(指名委員会等設置会社・機関設計)

円谷 インフロニア・ホールディングス設立から1年半経ちました。この体制に移行することで目指していたことを、改めて教えてください。

岐部 私たちは、「どこまでも、インフラサービスの自由が広がる世界。」の実現をビジョンに掲げています。少し説明を加えますと、インフラを運営する中で、様々な規範やルールが効率化や価値の向上を阻害していることに気づきました。これまでの「造る」「建てる」に捉われない自由な発想で、「総合インフラサービス企業」への変革に挑戦しています。「総合インフラサービス企業」とは、当社が請負事業で培ってきたエンジニアリング力と脱請負事業で力をつけてきた新たなインフラサービスが融合したビジネスモデルです。インフロニアグループ全体でシナジーを発揮しながら、安定した収益基盤の確立とともに、企業活動を通じた社会課題解決への貢献を目指しています。加えて、社会変化への対応力の強化に取り組んでおり、特に力を入れたことのひとつがガバナンス体制の強化です。ホールディングス設立前の暫定指名委員会において、徹底したプロセスで機関設計について議論を深めてきました。指名委員会等設置会社制の導入を行うことで、取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める指名委員会、報酬委員会、監査委員会を設置し、取締役会の経営監督機能を確保しています。これにより、ホールディングの求心力を高めるとともに、事業会社の遠心力が発揮できる体制を目指しました。

② 経営と事業の進捗

円谷 設立当初に考えていた計画と比べて、実際の経営統合の進捗はいかがでしょうか。

岐部 成果には、ガバナンス面、事業面、組織風土や人材交流面など様々あります。早く成果を求めたい気持ちはありましたが、そんな簡単なことではないと思っていましたので、そういう意味では想定内ですし、順調と言えます。目に見えてわかる成果の一つとして、対TOPIXに対する相対株価の上昇があります。投資家からのエンゲージメントも増加しており、期待をひしひしと感じております。また、資金調達コストが下がったことも大きいですね。トータルで資本コストが下がることで、結果的に、会社のP/L、B/Sに良い数字が反映され、結果的に社員の給与やボーナスなどに還元されていると思っています。

円谷 社外取締役の視点からはどうご覧になっていますか。

髙木 まず一つ目は、ガバナンスの進化です。指名委員会等設置会社として設立から1年半、執行側への権限の委譲が順調に進んでいます。想定していたよりも早い段階で権限が移っているので、投資などの意思決定の迅速化や日々のスムーズな業務推進につながっていると思っています。もう一つは、事業面での統合効果です。3社(前田建設・前田道路・前田製作所)での受注活動、施工活動、取り組みが増え、以前と比べて明らかに違う印象を受けています。例えば、脱請負の強化を目的としたエリア戦略では、主に全国の自治体のインフラ運営案件の情報を⼀元化し、戦略⽴案・推進に共通の業務プラットフォームを活用して、各社営業担当者が効率的に情報共有しています。その他、既に施工案件も共同しての取り組みがでており、連携が強化されていることを感じています。

円谷 なるほど、事業面でも様々な良い効果が出ているということですね。

③ 社内風土の醸成へ

円谷 そのほかの効果はありますか。

髙木 個人的には組織風土、人材交流面での変化を感じています。前田道路、前田製作所、前田建設の職員がホールディングスの中におりますが、誰がどこの会社の出身者か全く分からないような雰囲気で会社ごとの垣根を感じることもなく、一体感が醸成されています。例えば、統合報告書の作成メンバーも、3社からの混合チームで構成されていますが、お互いに刺激を受けて楽しそうに取り組んでいました。そういうソフト面の良さが出てきており、連携が多くなっている印象を持っています。

岐部 どこの出身とか、あえて気にしないようにしています。先ほど統合は簡単ではないと申しましたが、私は“意識”のことをイメージしていました。物理的に会社が一緒になっても、社員の縦割り意識、横割り意識、上下の意識のようなことは、簡単に統合できないと思っていました。会社設立から今日に至るまで、事あるごとに社員の皆さんには、縦割り横割りは排除してほしいと、出身、男性・女性、さらには上下も意識しないでリスペクトしあってほしいと伝えています。統合プロセスとして一番ネックであり、そして一番大事なことだろうというのは、私だけでなく多くの執行役・社外取締役の方々も意識していると思います。

円谷 縦割り横割りの意識は、2年、3年、4年目と経って、もっと薄くなるのかもしれないですね。さらなる統合に向けて、克服すべき課題や、改善・対処するための取り組みなどあればお願いします。

岐部 前田建設、前田道路、前田製作所ともに、モノを作ってきた歴史のある会社です。世間でもよくあることだと思いますが、"モノを作っている現場"と"それ以外の部門"では、良い悪い両面で大きな分断があります。これまでは業界を超えて他社に質問しても解消の明確な回答はなかったですが、グループ全体の一体感や、自分ごとで仕事をする当事者意識を大切にし、分断解消に取り組みたいです。解決のための取り組みとして、取締役会や執行役会の議事録を、新入社員に至るまで全グループ役職員が閲覧できるようにしました。

円谷 全社員にですか?IR部門ですら見られないという会社がかなりあります。そこまでする理由や目的、具体的なアクションについて教えていただけますか。

岐部 これは、経営の情報を、如何に素早く現場の最前線の人に伝えるかがとても大事だと考えているからです。社員一人一人が経営意識を持つまでは難しくても、会社が目指しているビジョンや風土、課題感を自覚してもらうことは可能ではないかと考えています。情報の不平等を無くし、一体感を持って一つの船を共有しているという意識を大切にする会社であるということを自覚してもらいたいと思っています。

タウンミーティング実施風景
タウンミーティング実施風景

髙木 社員との意見交換、コミュニケーションの機会を相当捻出されてますよね。出張が多い中、全国の社員と直接対話するタウンミーティングも年2回全国13箇所で行っています。一部参加させていただきましたが、社長が一方的に話して終わりではなく、社員が積極的に質問をし、双方向での活発なやり取りに驚きました。事務局がいつも時間調整が大変ですと私に話してくれました(笑)。

円谷 それ、すごいですね。日本の多くの会社で、社外の人間から見ると「これはすごい」と思うことが、社内の人間の目には「当たり前のこと」と映ってしまい、社外に開示されていないことが多い。公開したほうがいいんじゃないですか?これは大変な価値があることですよ。

岐部 確かに、投資家目線とか、この会社を客観的に見ようとする人たちは、社内で当たり前だと思っていることに興味があるのかもしれない。そういう視点では、もっと事業や働く人を見てもらって、相互理解につなげることは重要なコミュニケーションになるのでしょうね。前田製作所の人は、どれだけワクワク楽しみながらクレーンを作っているかとか、前田道路の人は道路の舗装にこんなに生きがいを持っているとか。先日も投資家、アナリスト向けに愛知県の有料道路の運営やアリーナの建設現場などの、職員との交流も兼ねた現場見学会も開催し、皆さん大変参考になり、とても面白かったと言われていました。

円谷 「別に人様に見せるものじゃない、普通だろう」ではなく、そういう新鮮な感覚で、今年の統合報告書を作成されることを期待しています。

岐部 統合報告書などを通じて、我々がインフラの未来にチャレンジしている姿を理解してもらうために、どう伝えるか考え続けなければいけないですね。

前田建設:愛知アリーナ建設現場(アナリスト向け現場見学会)
前田建設:愛知アリーナ建設現場
(アナリスト向け現場見学会)
前田道路:砂町合材工場(アナリスト向け現場見学会)
前田道路:砂町合材工場
(アナリスト向け現場見学会)
「総合インフラサービス企業」を目指して(中:企業統治からKPI、そしてやりがいと実行へ)へつづく