INFRONEER Holdings Inc. INFRONEER Holdings Inc.
設立から1年、統合報告書発行記念対談

「総合インフラサービス企業」
を目指して(下)

サステナビリティ ~会社と社会、地球のベクトル一致~
円谷 昭一
一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
岐部一誠
インフロニア・ホールディングス株式会社
取締役代表執行役 兼 CEO
前田建設工業株式会社 代表取締役副社長
髙木 敦
インフロニア・ホールディングス株式会社
社外取締役
「総合インフラサービス企業」を目指して(中:企業統治からKPI、そしてやりがいと実行へ)はこちら

① 会社と社会のベクトルを一致させる

円谷 2023年6月の有価証券報告書からサステナビリティの開示が強化されます。改めて、御社にとってサステナビリティとは何ですか。

岐部 社会の一員である以上、会社が生き延びるだけではサステナブルとは言えません。地球や社会などのサステナブルと、会社のサステナブルのベクトルを一致させていく事が大事です。地域や社会などの大きな概念から自らを位置づけた方が、会社・社員にとってもわかりやすく、行動につなげやすいと思います。

円谷 しかし、株主配当や環境・社会への投資など社外のステークホルダーに配当することは、本体の利益を圧迫することでもあります。営利企業として利益創出の使命とのバランスをどう考えているか、とご質問をするとほとんどの会社で明確な解を持ってはいません。

岐部 CSRの起源に戻って、企業の社会的責任とはそもそも何かという議論がありますよね。ヨーロッパで生まれて、アメリカを経由して日本に来た時に、日本は地球環境という流れになった。アメリカではメセナが流行り、ヨーロッパでは適切な雇用を行うことが企業の社会的責任とされました。どれが正しいわけでもなく、当然環境だけでもありません。我々もサステナブルとは?と、考え続けなければならない。

円谷 世代によっても違うし、若い社員と経営者の考えも違っていると思います。多様な考え、見方があるということをまず意識する必要がありますね。

② 機会と制度をつくる、ひとりひとりのマーケット価値をつくる

円谷 人的資本に関する方針や事業会社別の詳細なデータをホームページで開示され、重視している印象を受けます。人的資本をどのように捉え、また社員の皆さんに何を期待されていますか。

岐部 当たり前ですが、人がいてこその会社です。個々の成長が会社の成長につながるので、個々の成長する機会を提供することが我々経営層の重要な役割だと思っています。成長とは、利益を上げる力をつけると共に、人間として尊敬される存在になり、何事も自分ごととして取り組めることです。こういった人たちの集団にするのが、遠回りのようで一番、企業価値を上げる近道だと思っています。

髙木 主観的な話ですがアナリストとして、会社を見るときに何が一番大事かというと、社員が「イキイキ」しているかどうかです。組織資産のキーワードは「ワクワク」なのですが、人的資産のキーワードは「イキイキ」だと思っています。今回の統合報告書の作成は、皆さん初めての取り組みで相当プレッシャーだったと思いますが、メンバーは「イキイキ」と取り組んでいました。結果として初めての統合報告書にもかかわらず、GPIFからも高い評価を受けましたよね※。この順序が大事なんだと思います。昔から「イキイキ」している会社だなと感じていましたが、インフロニアになって、いろいろな機会が若い世代に下りてきたことでさらにそう感じます。

イキイキとした統合報告書製作チーム(編集後記より)
イキイキとした統合報告書製作チーム(編集後記より)

円谷 私は、教育現場にいますが、4~5年経って会うと変わったな、伸びたな、変わらないなという学生と明らかな差がある。本人の意思もあるでしょうが、経験できる、成長できる、よい会社に入れたかで差が出ているように思います。

岐部 若手の育成では土木、建築、事務、3つの職種の中堅の兄貴分みたいな「教育長」という制度(前田建設の制度)があります。30,40代くらいの人たちがチームになって、若手の教育プログラムを考え、新入社員のケアなどの役割も果たします。職種ごとに教育内容は異なりますが、専門以外に興味を持たせる内容も考えています。そのため教育長に、我々の哲学や経営計画の理解はもちろん、世界のシステムが何故このようになっているのかの根源を知った方が良いので、思想の原点である様々な宗教の成り立ちや、デカルトなどの哲学も読んでもらいます。

髙木 一般教養まで学ぶ、そういう仕組みがある建設会社はないです。先日も前田建設では、一泊二日で全役員が集まって、「人材マネジメント」について真剣に徹底的に議論しましたね。

岐部 永遠のテーマですよね。1人1人がどう成長していくか。今、たくさんの情報にふれている若手の知識は昔よりすごいと思います。一方で、どう生きていくかは、我々世代のように一本調子ではいかない。だから、私生活も大事にする人、昔の猛烈サラリーマンでもいい。ラインは一つではないことをみんなが理解し、そこに自分自身で意味づけをしていくことが大事。様々な価値観がある中で考える環境や素材はこちらで用意しますが、中堅社員になるまでに自分で考えてほしいですね。

円谷 経営者もまた人的資本です。経営人材の育成はどのように考えられていますか。

岐部 サクセッションプランは、ホールディングスになってより意識をしています。ただ、それには会社側の機会提供と本人の自覚が必要です。時代にあった機会・制度とともに、本人の自覚をどう促すか、かなり議論や試行もしています。自覚するには一定程度の競争も必要で、中途採用も積極的に行うことで一助になればいいと思います。

円谷 社外取締役の立場から将来の経営人材になる中堅の育成や人材確保についてはいかがですか。

髙木 外資系にいた経験からしますと、岩井克人先生がおっしゃっている「汎用的人的資産」と「組織特殊的人的資産」のバランスを如何にとっていくのか、あるいは両方兼ね備えた人材を育成していくのか、この辺りに議論のポイントがあるのかなと思っています。外資系企業は圧倒的に汎用的人的資産、日本の伝統的な企業は圧倒的に組織特殊的人的資産に傾注してきました。しかしながら、日本においても転職が当たり前の時代になり、汎用的人的資産を求める社員が明らかに増加していくことになります。一方、日本の会社では商品化できない組織特殊的人的資産によって生み出される製品・サービスによって差別化されるという現実もあります。私自身答えを持っているわけではありませんが、ガバナンスの問題と同様、正解があるわけではなく、やはりここにもインフロニアが目指すものを実現するためにどのような人材ポートフォリオが必要かと徹底して議論していくことが大事だと思います。(汎用的人的資産とはどのような組織においても通用するような知識や能力のこと、組織特殊的人的資産とは個々の組織のなかでのみ価値をもつ知識や能力のこと)

岐部 先ほども申し上げましたが、多様な価値観や向き不向きもあるからラインは一つではないということが大事です。複数あるラインの中で、それぞれが力を発揮できるところを、本人も希望できるようにし、気が付いていない人にも場を提供していく。本人はしんどいでしょうが、結局イノベーションはぶつかり合いや衝突から生まれてくるので、そういう場も作らなればならない。なれ合い組織ではいずれ衰退していく、そのバランスが経営力だと思います。正解はないですが、そういうことを我々経営者が自覚することが大事です。

円谷 その通りで、進んでいる会社ほどそこの悩みがあります。これまでの日本の組織(大学も含め)は、この問題からあえて目をそむけてきたと思います。でも、もう時代がそれを許しません。会社が人を選ぶように、会社も人に選ばれるということを直視すべきです。

髙木 辞めていくことも悪いことではない。外で活躍する人も増えてインフロニアが人を育てる会社だと広がれば、すごく良いと思います。その分、優秀な人がどんどん入ってくるようになりますから。

対談を終えて:つながるトップの想い
一橋大学大学院 円谷昭一氏
 対談を無事に終えることができてまずはホッとしています。まず印象に残っているのは経営トップがぶれない軸をもって経営をされているということです。「この会社をよくしていこう」という想いが強く伝わってきました。なぜよくするのか?もちろんインフラの構築というインフロニアHDの事業を通じて社会に貢献するとともに、そこで働く社員さん、インフロニアHDに出資してくれている株主さん、その他のステークホルダーのために会社をよりよくしていこうという気持ちが伝わってきました。この“よりよく”という言葉は多くの会社の経営トップもよく使いますが、やや曖昧な言葉でもあります。これについて岐部社長さんは(ご自身がIR担当だったということも影響していると思いますが)大変よく勉強され、深く考えられています。だからこそ“ぶれない”軸が出来上がっている。だからこそ伝わる。私はそのように思います。
そして、そうした経営トップの想いを社外取締役(髙木氏)がしっかりと共有していることもまた強調しておきたいと思います。社内取締役と社外取締役との間に見えない壁があり、社外取締役がお客様扱いされている会社は決して少なくありません。そうした中で、インフロニアHDでは社外取締役もまた(社内取締役とともに)汗をかいていこうとする意志をひしひしと感じました。対談の現場にいたサスティナビリティ、ブランドコミュニケーションの担当メンバーも私と同じ感想を抱いたのではないでしょうか。もちろん、トップの想いは社外取締役だけではなく、グループ報を通じてそれぞれの社員さんへと、そして統合報告書を通じて外部のステークホルダーへと伝わっていくことでしょう。伝わるということは、つながるということを意味します。経営トップの「会社をよくしたい」という想いを軸にして社員さんやステークホルダーがつながっていく。とても素晴らしいことだと思います。もちろん、その結果としての利益や株式評価も高まっていくことでしょう。インフロニアHDという会社は設立からまだ日が浅いものの、1つの想いでつながった皆さんの力によって、これからさまざまな場面でその社名を見ることになることを楽しみにしています。