INFRONEER Holdings Inc. INFRONEER Holdings Inc.
設立から1年、統合報告書発行記念対談

「総合インフラサービス企業」
を目指して(中)

企業統治からKPI、そしてやりがいと実行へ
円谷 昭一
一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
岐部一誠
インフロニア・ホールディングス株式会社
取締役代表執行役 兼 CEO
前田建設工業株式会社 代表取締役副社長
髙木 敦
インフロニア・ホールディングス株式会社
社外取締役
「総合インフラサービス企業」を目指して(上:総合インフラサービス企業に向けた進捗)はこちら

① ステークホルダーの満足度は、中長期的な時価総額に反映される

髙木 長年、建設業界はIRや開示などが遅れていた業界でした。岐部社長は株式市場の声にとても関心があり、20年くらい前から、株主とのエンゲージメントを積極的に行っていました。なぜそのようになったか改めてお話いただきたい。

岐部 IRも担当していたので、特に海外ではバイサイドの人たちと直接会話する機会も多くありました。会社の経営は、自分たちの論理、自己都合のような内向きにベクトルが向いてしまう傾向がある。一方で、株主は、外へのディスクローズや、レバレッジ効果による成長戦略などに期待のベクトルが外へ向いている。当時の私は、この真逆の状態に、ギャップとリアリズムを見ていました。

髙木 当時の前田建設では、社長が出席する機関投資家とのスモールミーティングや海外での投資家訪問など、他社がやっていないことを積極的にやっていましたね。

岐部 会社の最大のコストと言っても過言ではない“内部の論理と外からの期待のギャップ“の解消が、会社の未来にとって大事だと考えています。当時は、IRにより内と外のギャップを埋めることが私のライフワークになっていました。

円谷 当時の理想には近づいていますか。

岐部 一気にはできませんが、少しずつ解消に向かっています。我々が投資家の皆さんに丁寧にメッセージを伝え、投資家の皆さんに我々のメッセージを理解していただき、相互信頼関係が構築できれば、我々のモチベーションも更に上がって解消に向かっていくと思っています。

円谷 株主の御社への目線も変わってきていますか。

岐部 ビジネスモデルを変革し、総合インフラサービス企業(※1)を目指すようになってから、特にインフロニアになって以降はかなり変わってきていると感じます。例えば、日本を訪問している外国人投資家とのIRミーティングで「今回の訪問先は、建設会社では御社だけ」という方がかなり多くなっています。

髙木 嬉しいことですね。

岐部 我々の取り組みを理解している方々が増えてきたからだと思います。この対談を読まれる社員や社外の人に伝えたいのは、 “自己都合の経営だけは一切やらない”ということです。次の経営者になっても、それを目指してほしい。そのために機関設計を重視していますが、それだけでは担保出来ません。実効性が大事だと思います。嘘のない経営とするため、役員会などの議事録を全社員に共有しています。正々堂々と潔く経営判断することが、先ほどのギャップ解消になると思います。

円谷 理想とする会社やガバナンスの体制はありますか。

岐部 あるかもしれませんが見つけられていません。ガバナンスは国によっても違い、正解はない。ただ、地域に密着したボッシュやフォルクスワーゲンのようなドイツ型の経営は面白いと思っていました。昔、フォルクスワーゲンの不正が発覚した時、私は1週間ドイツに行く機会があり、ヒアリングして回りました。すると、「仏と魂は別だ」とみんなが言うわけです。フォルクスワーゲンの機関設計でも、結局データの改ざんが起きました。ガバナンスの体制、仕組みといった機関設計だけでは回らないのだと、改めて思いました。

髙木 ガバナンスに正解はありませんが、社長の世界観や軸が、何よりも重要な時期です。資本市場との対話・エンゲージメントを通じて、ヒントを沢山もらっていることが、インフロニアの最大の強みだと思います。ホールディングス化したとき、最初に「企業価値向上は中長期的な時価総額向上に繋がる」、「全てのステークホルダーの満足度は中長期的な時価総額に反映される」という軸が、トップから明確に伝えられたので、みんなにスッと入ったわけです。選択や判断の際に「これって企業価値が向上することなの?」と必ず立ち返ることができます。ぶれない軸があることで、社外取締役としても不安がありません。個人的にはこのぶれない軸を次の世代に組織資産として残すことが大切な使命と考えています。

円谷 それが今一番大事です。劣化させずに、見えざる資産としてどう受け継ぐか。そういう視点を社外取締役が話しているのも、日本企業の中で少ないと思います。そこまで現体制に自信があるということですかね。

髙木 そうですね。自信というか、眼に見えないとても良好な組織資産がインフロニアにはあり、これを繋げていって欲しいと思っています。一例を上げれば価格に対する規律です。アナリストとして30年間建設業界を見てきて、世代が変わっても相変わらず、過度な安値受注を繰り返す建設会社がいて、結果として、社員や職人の技量・熱量などあらゆるものが安売りされ、顧客や社会に対して不信感を齎す行為が私は残念で仕方ありませんでした。組織資産のなかに「安値受注は例外なく悪である」という文化が根付けば、社員、協力会社、顧客(エンドユーザーも含む)、地域社会の関係が好循環で回ります。これは私がかつて働いていた業界も同じでして、我々が提供する価格への規律が全てでした。この業界全体の課題に最初に切り込んだのが岐部社長であり、原価開示方式(※2)でした。我々は次のステップに進んでいますが、少しでも業界全体が変わってくれるといいなと強く思っています。

② ボードルームから職員まで、利己主義でなく同じ船で進む

円谷 岐べログは、なぜ始められたのですか。かなり深くまで語られていますよね。

岐部 社外に経営のメッセージを出すことで、我々の理念、考え方に共感してくださる方々を増やすのも、広い意味での社会貢献活動だと思っています。本当は自分のブログなんて出したくない…(笑)読んで質問してくださる方が多いので、我々がやろうとしていることへの理解促進には繋がっている気がします。

髙木 他の建設会社の方からも「岐べログ読んだけど、ちょっと教えてくれ」と聞かれることが多くあります。

円谷 社外取締役から見て、取締役会のメンバー間の一体感のようなものは進んでいますか。

髙木 そもそも、最初からかなり一体感があったと感じています。ホールディングス設立、業界初の指名委員会等設置会社、中長期的な企業価値向上など、社外取締役としてもワクワクするような課題が眼前にあったからだと思います。また、設立前の暫定指名委員会からのメンバーも多く、多くの会議で意見を交わしました。設立後も、三委員会(指名・報酬・監査委員会)にそれぞれが属されており、対面で会う機会がかなり多くあります。雑談を含め活発なコミュニケーションがプラスに働いていると思います。会議以外にも、決算勉強会、現場見学会など執行側が意識して一緒にいる場を用意してくれています。結果として、人柄や性格も含めてお互いがお互いを非常によく理解していると感じています。

円谷 メンバーがそれぞれの事業会社の利益代表になっているとは感じませんか。

髙木 社内取締役も社外取締役も新しく設立した会社の企業価値をどう上げていこうかという共通の軸が明確ですので、感じたことはないですね。

岐部 1社では見えなかった世界を3社なら見えるのではないか?そんなワクワク感が、自社都合の考えを封印しているのだと思います。ですから、事業会社の利益代表のような意見を言うと恥ずかしいといった雰囲気になっています。

円谷 理想的ですね、なぜできるのでしょうか。

岐部 機関設計を考える中で、指名委員会等設置会社にする意義、社外取締役の比率や要求スキルなどを、徹底してディスカッションして考えたプロセスが良かったのだろうと、今、言われて改めて思いました。

円谷 確実に進んでいる感じですね。

岐部 どうせやるなら真似るのではなく、真似される会社にしようとしてきたので皆さん納得していると思います。

③ 未来を見せ、成長を実感できる指標を定める

円谷 株主価値・企業価値は、いざ算定しようとすると難しい部分があるのも事実ですが、一方でその向上にむけた意思表示として具体的な数値を示すのは重要かと思います。資本コストの低減、ROICの向上などを統合報告書に書かれていますが、その意味づけ、位置づけを改めて教えていただけますか。本気度と言っても良いかもしれません。

岐部 当社が重視していることについて、株主の理解を促進するために株式市場で重要なこれらの指標をあげています。でも本質的には、会社の成長・企業価値向上が、組織だけではなく、社員1人1人の未来や成長、社会にとっても良いということをKPIを通し理解を深めて欲しいです。

円谷 そうですね。株主・会社・社員が一緒になって企業価値を上げていけるのが理想的です。

岐部 若い時は、会社経営なんて自分には関係ない、ROIC、P/LやB/Sは経営者が考えることでしょうと、目の前の仕事に集中していましたね。そういうことにもっと興味を持っていたら、今とは違う自分があったのではないかという思いがあります。KPIやROE、ROAなど聞いたことない言葉や数字が並んでいて、それは自分たちにどう繋がっているかはわかりにくいかもしれません。でも、間違っても、株主向けの株価を上げるためだけの単なる数字とは思ってほしくないです。むしろ、自分の働きがい、生きがい、生活、未来との強い繋がりを社員の皆さんが理解し、家族・子供・孫にとっての価値を考えてほしい。それによって、ひとり一人の行動も変わり、確実に企業価値は向上すると思います。

円谷 インフラ、建設業界では、目に見える建物、橋、道路を作るといったことが存在価値の指標になりがちです。これからは、ROICを何パーセント上げたということが社員のやりがいに繋がり、自信を持てるような文化になってもいいですよね。

岐部 それが本当に企業や個人が社会というものの中に存在している意味なのだと思います。つまりサステナブルな社会につながっていくと。

「総合インフラサービス企業」を目指して(下:サステナビリティ ~会社と社会、地球のベクトル一致〜)へつづく