INFRONEER Holdings Inc. INFRONEER Holdings Inc.

統合報告 トップメッセージ

インフラの自由な未来が
持続可能な世界をつくる
インフロニア・ホールディングス 取締役 代表執行役社長

ホールディングス設立の背景

1990年代後半、私は前田建設の経営企画の一員として会社が進むべき方向を自問自答していました。当時は日本全体がバブル崩壊後の成長戦略が描けない時代で、建設業界も相次ぐ談合の発覚で大変厳しい状況でした。海外ではヨーロッパやアメリカにおいて、新規建設を中心とした旧来型の建設市場は縮小が進んでいましたが、PPP・PFI※1やコンセッション※2など新しい建設市場が拡大しており、日本の建設市場もいずれそうなることは誰の目にも明白でした。

今でもそうですが建設工事の大半は、建設事業者が工事の完成を発注者に約束する請負契約で実施されます。事業リスクを取ることはなく、工事に対する報酬が約束されるメリットが請負ビジネスにはあります。その一方で市場が縮小すると請負の価格競争が激しくなり、利益が出にくくなります。そうした状況が続く中、海外の大手建設会社の一部は、空港や上下水道のような社会インフラ※3を公共に代わりリスクを取って自らの資金で建設し、その運営、維持管理まで一気通貫で手がけるビジネスに参画しはじめました。

日本に目を移せば、老朽化が進む日本の公共インフラへの対処があります。人口減や低成長などによる地域財政難のため、上下水道や道路といった公共インフラを自治体だけで維持・更新するのは容易ではなくなってきています。従来の「公共施設は官製」という概念では、日本の公共インフラはいずれ行き詰まることでしょう。この課題に対して、請負という既成概念を超えたコンセッションによる官民連携が解決の道筋を示しています。既成概念を超えたインフラサービス※4が広がることで、インフラの更新・最適化が進み、安全安心で持続可能な社会が実現していくのです。

私は、この官民連携の手法に、今後の事業の可能性を見出し、インフロニア・ホールディングス設立へと続く「請負×脱請負」※5の取り組みを開始したのです。

官民連携では、愛知県有料道路や愛知県国際展示場、仙台国際空港など、国内のコンセッションプロジェクトを獲得してきました。カーボンニュートラル社会の実現に向けては、再生可能エネルギー事業に投資して施設を建設・運営し、インフラファンドに売却して資本のリサイクル※6につなげるという取り組みを既にはじめています。こうした取り組みは前田建設単独で行ってきましたが、前田建設だけではリソースが足りず、加速させることが困難でした。前田建設、前田道路、前田製作所のグループ全体でシナジーを発揮し、着実に成長しながら社会課題の解決に貢献していくためにインフロニア・ホールディングスを設立したのです。

インフロニアが目指す自由な未来

脱請負を進めることは、私たちも含めてインフラの抱える既成概念を超越していくことでもあります。例えば、日本は小さな島国ですが、文化も経済も世界有数の国になりました。しかし、その良さがあるからこその副作用でルールチェンジができにくい、なかなか変われないという一面があります。これはインフラに関しても同じで、建設業界にも法律や人の意識といった既成概念の壁がありました。

しかし、法律も業界も人も変わっていくことでインフラをより自由にしていけば、はるかにレベルの高いインフラサービスを実現し、持続可能な世界に貢献していくことができます。このSDGsやESGにもつながる考えを「どこまでも、インフラサービスの自由※7が広がる世界。」と表現して、インフロニア・ホールディングスの中長期経営ビジョンに掲げました。

エンジニアリングと 金融ノウハウを併せ持つ強み

私たちが脱請負ビジネスを実現させてきたポイントは2つあり、一つは脱請負という従来の発想にはないビジネスの実施を可能にするために、法律や条例を変えていくことでした。そのための活動はこれまでもしてきましたし、今後もさらに注力していきます。

もう一つは建設会社でありながら金融ノウハウを得たことです。コンセッション事業も再生可能エネルギー事業も、海外ではエンジニアリング力※8を持つ建設会社と金融機関が組んでプロジェクトを遂行していました。ところが、私たちは日本でパートナーとなる金融機関と出会うことができず、グローバルなトップレベルのプレイヤーと組むことで金融ノウハウを習得していったのです。

脱請負ビジネスは、プロジェクトに出資して運営や維持管理に関わることで、より大きなリターンを狙うビジネスですが、事業に関わることによるリスクもあります。しかし、もともと強みであったエンジニアリング力と習得した金融ノウハウを活用すれば、プロジェクトのリスクを低減することができます。他に類を見ないエンジニアリング力と金融ノウハウを併せ持つことが、私たちの大きな差別化要因の一つであり付加価値であると思っています。

インフラの未来に挑む3つのビジネスモデル

インフラサービスの自由が広がる世界を目指し、自らも成長しながら事業を通じてインフラの課題を解決していくために、インフロニアグループは3つのビジネスモデルに注力しています。

請負×脱請負※5

インフロニアグループにとって、請負と脱請負は車の両輪であり、請負が強くなければ脱請負を伸ばすことはできませんし、脱請負が強くなれば請負に好影響を与えることができます。脱請負は時間のかかるビジネスなのでグループ全体で取り組むことはせず、インフロニアが中心になって推進し、金融ノウハウの強化によるリスク低減を図りながら、収益拡大を狙います。事業会社は請負をはじめとする従来の事業を推進し、エンジニアリング力を維持・強化していきます。

脱請負と請負が両輪となって機能することで、「総合インフラサービス企業」として企業価値を向上させることを可能にします。

一気通貫×領域拡大※9

事業創出から企画提案、設計、施工、メンテナンス、維持管理、運営、売却まで、プロジェクトの上流から下流まで一気通貫で手がけるビジネスを拡大していきます。

道路、上下水道、空港など、さまざまなインフラ分野に事業ポートフォリオの領域を拡大し、複数の分野を複合的に手がけることで、社会全体に対して、より包括的かつ効率的なサービスを提供することを可能にします。

この一気通貫の対応と領域の拡大により、広範なインフラ課題の解決に貢献していきます。

資本のリサイクル※6

エンジニアリング力と金融ノウハウをベースにリスクを取って社会インフラをつくり、長期のリターンを生み出すプロジェクトに仕立てて、安定運用が重視され開発リスクを取れない年金ファンドに売却することで、資本のリサイクル(流れ)を創出します。

このサイクルを回していくことで、官民連携によるインフラの整備や更新を進めることができ、年金財政などの社会課題の改善にもつながります。つまり、インフラサービス全体に取り組むことで、インフラを取り巻く課題だけでなく、社会の幅広い課題解決につながるのです。

改革推進のポイントは「文化」「人」

新しい建設業のモデルを示し、改革を推し進めていくためのポイントは、インフロニアグループの企業文化、社員の意識の進化にあると思っています。脱請負ビジネスの先駆者であるヨーロッパの建設会社のトップたちも「一番重要なことだが、人間の気持ちを変えることは大変で10年はかかる」と言っていました。

意識を変えてもらうためには、個人の成長と会社の成長のベクトルを合わせられるような新しい仕事やチャレンジする場が必要であり、そうした場を提供していくことが私の重要な仕事であり役割であると思っています。この統合報告書も、そうした場の一つです。

また、この度、「INFRONEER^(インフロニアキャレット)」※10というインフロニアのVMV※11の実現に向けたグループ全体共通の社員一人一人がもつべき考え方、精神や行動の指針を定めました。これは、一般的には行動規範のようなものですが、インフロニアでは、我々インフロニアパーソンのもつ多様な強みの累乗(キャレット)による、新しい価値創造の源泉であり、大切にする道しるべと位置付けています。

このように、社員が「次のステップに行こう」という共通の意識を持つことができる機会を、一つでも多く提供していきたいと考えています。

また、社員と会社の進化に欠かせないのがDX であり、DXとはデジタルを活用したルールチェンジと考えています。ルールチェンジとは、既成概念を打ち砕き、一人ひとりが意識を変え、業務の仕組みや方法を大きく変革して、新しい価値を創造することです。

私は、DXの推進により、やりがいのある働き方をもたらし、社員と会社がともに成長していく未来を描いています。そのためには、役員・職員のDX実行に向けた意識改革とそれを支えるITリテラシー向上も欠かせません。様々な経営環境の変化に対して、生産情報データを活用した迅速な意思決定・経営判断を行うことがますます重要となっており、さらなる成長のためにDXは不可欠と考えています。

持続可能な世界に向けて

意識の改革や新しい文化を生むためには、サステナビリティの視点も重要です。そもそも公共インフラの課題解決に貢献する脱請負ビジネスが結果的にSDGsと言えなくもないですし、ESGを取り込んだビジネスモデルです。

違った考え方の人たちが衝突したり融合して、新しい発想や新しいチャレンジを生み出せることがダイバーシティの一面にあると思いますので、文化と人を進化させるためにダイバーシティを推進していこうと考えています。ホールディングスの設立においても、ダイバーシティを意識して、社員における女性比率30%以上を目標にしました。数字が目標ではなく、そうすることによって新しい文化が生まれてくることを期待しての取り組みです。

私たちは社員と会社が進化していくことで広範な社会課題を解決するインフロニアグループへと変貌し、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

安心してインフラを任せられる会社

2022年3月期の業績はイメージ通りで、今期も堅調に推移するようマネジメントして参ります。しかし、文化、社員の意識に関しては、今後さらに注力していかなければと考えています。中期経営計画の基盤構築フェーズとしてVision2024を、中長期経営計画の成長フェーズまでを含めた中長期経営計画Vision2030、その中でも基盤構築フェーズとしての中期経営計画Vision2024を策定しましたが、その遂行に欠かせないものも企業文化・社員意識の進化だと思っています。

インフロニアグループは企業文化・社員意識を進化させながら、事業会社のエンジニアリング力とインフロニアの脱請負で社会の広範な領域で実績を積み重ね、すべてのステークホルダーの皆さまから安心してインフラを任せていただける会社に成長させていこうと考えています。

投資家の皆様へ

私は90年代後半よりIR(投資家向け広報)も担当してきました。当時の建設業界では珍しく、経営トップ自らが決算説明会や海外ロードショーにおいて投資家の皆様と意見交換する機会を企画し、自らも同行してその場で多くの投資家の皆様と意見交換をしてきました。「建設業界という旧態依然とした業界において、如何に1株当たり利益を増やしていくのか」、「PERやPBRといったバリュエーションの低さをどう考えているのか」、「親子上場の問題をどう考えているのか」など、時代によってトピックスは変わってきましたが、企業価値向上に関して多くの貴重なアドバイスを頂けたと思っています。私は企業価値向上とは中長期的な時価総額の拡大に繋がるものだと思っています。世の中が株主至上主義からマルチステークホルダー主義に変わろうとも、全てのステークホルダーの満足度は中長期的な時価総額に反映されると思っています。そのためには、キャッシュフロー最大化へ向けての努力はもちろんですが、全てのステークホルダーの皆様から信頼され期待される会社になることだと思っています。これまで以上に投資家の皆様とのエンゲージメントを積極的に行い、役職員一丸となって企業価値向上に邁進していきたいと思っています。引き続き、叱咤激励をよろしくお願い申し上げます。

岐部 一誠(きべ かずなり)

1986年前田建設入社、2014年常務執行役員、2016年から取締役や経営革新本部長等を歴任し、2021年10月インフロニア・ホールディングス取締役代表執行役社長兼CEO就任