INFRONEER Holdings Inc. INFRONEER Holdings Inc.
対談

デジタル技術でつなぐ、市民とインフラの未来

加藤崇
Whole Earth Foundation 創業者・CEO
Fracta会長
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岐部一誠
インフロニア・ホールディングス株式会社
代表執行役社長 兼 CEO
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なぜ、今TEKKON(※3)か?

加藤 FractaはAIのアルゴリズム開発ができる敏腕エンジニアが多数在籍しています。そこで、水道産業以外のインフラ企業からも様々な相談が来るようになりました。たとえば、屋外の環境に晒されているインフラについては、東京にあっても、大阪にあっても、劣化分析できると考えた。ただある時、「いや、これをAIで予測する意味は全くないな。そもそも地上にあるインフラに関しては、見えるし触れことができるから、物理計測の方がコストは低いし、楽なんじゃないか」と思った。それがある種の気づきになり、こうしてFractaが成功しているのは、対象が地面の下にあって、目で見ることができず、手で触ることができず、また土壌を掘り起こすコストが甚大だからなんだと気づいた。だからAIが非常に役に立ったんだと考えるようになりました。
では、なぜ他のインフラ企業も、Fractaに分析してくれと言うのか。それは、ひと言で言えば「マンパワー不足」なんですね。だとすれば、それに対して方策を出せば、新たなマーケットが出現する。でも、それはおそらくロボットやドローンを世界中で飛ばして上から全部写真を撮ればいいという、しらみつぶしのやり方ではなくて、もっと効率的ないいやり方があるんじゃないか。イギリスでも日本でも漏水があると市民が通報しますよね。水道局に電話して「すいません。自宅の前が水で溢れてます。誰か来てください」と。この市民の力を使った方がいいんだろうと思ったんですよ。
今はスマートフォンが普及し、あらゆる人が(スマートフォンに内蔵された)高精度カメラを手にしている。実測できるデバイスを持ってるから、インセンティブを作り、人々がもっと頻繁に報告できるシステムを作れば実測が楽になる、そんな感覚がありました。それで「TEKKON」の初期のアイデアがだんだん出来上がってきたのです。その後にゲームとして人々にスマートフォンで帰り道に写真を一枚撮ってもらえるようにすればいいのではとなっていきました。

岐部 市民がデータを集めて、そのデータをブロックチェーンで証明して、リターンとして仮想通貨トークンをもらう。この仕組みに関心をもちました。これはマンホールや電柱以外にも、インフロニアグループがコンセッション事業で運営している道路や、建物の劣化などいろいろなことに使える可能性があるっていうことがTEKKONに注目した理由の一つですね。もう一つはこの仕組みをバーチャルの中で使えるという点です。メタバースやデジタルツインの世界でものを造ったり、壊したり、維持したりするのはリアルとのシナジーが生まれると思います。そこで使うデータをとるためのインセンティブにもTEKKONの仕組みが使えるのではと思っています。

改めて、民間がインフラに取り組むことの意義

加藤 とりわけ変化することが必要な際は、公共的なやり方では上手くいかないことが多いと思います。民間企業のレースの中でも、スピードレースの代表格であるベンチャーの世界で生きるためには、資金が尽きる前に、市場の穴を探し当て、その穴にフィットする技術を研いで、会社を大きくしなければならないという合理的な切迫感があります。それがイノベーションを生む際のクリエイティビティの源泉になっていると思います。人類が見つけ出した、上手い仕組みなのです。短いタイムフレームの中で、才能ある人に、十分なリスクを取らせる。しかしそこには大きなリターンがあり、マーケットを作ったり技術を上手く組み合わせればお金が入ってきて、会社が大きくなる。ゲーム性のあるエコシステムは日本にもだんだんできつつあると思いますが、アメリカと比べれば、まだまだ道半ばです。こうした環境から優れたものが生まれやすいということは、シリコンバレーの歴史が示していますし、だからこそ僕は今でもシリコンバレーに住んでいるのです。
合理的・体系的にイノベーションを生み出すためには、シリコンバレーの環境が世界で一番上手くできているとおもいます。だから、日本も高度経済成長が終わり、人口が減少に転じて、もう公共だけでは立ち行かないという状況下で、抜本的にこれを改善するような策を打って、ターンアラウンドするのは民間にしかできないと思います。

岐部 なぜ民間かという話は多分日本独特の概念なんですよね。例えば、最初から民間が水道を運営しているフランスでは公共か民間かという議論自体があまりない。そもそも官か民かっていう議論自体が非常に日本的です。日本には欧米と違って公務員という身分があるからです。
日本の場合はインフラに関して言うと、公共が権威になってしまっている。シリコンバレーでも、世界中でイノベーションをする人たちっていうのは、権威に抵抗する自由を望む人たちで、その既成の枠組みを取り払おうとした人ですよね。民間には自由度がある。フランスなどでは公共が運営しても経営の自由度があるから、イノベーションができる可能性もあるのかもしれない。日本では公共に変化のインセンティブがないので、公共からイノベーションが生み出しにくいのだと思います。だから民間でやるしかない。

市民、地域社会、次世代に伝えたいこと

加藤 科学技術は素晴らしいです。真理の前に、すべての者は平等ですから。客観的な事実を市民に伝えることができれば、どの水道局が怠慢で、どの水道局が怠慢じゃないなどという、主観的な議論から遠ざかることができる。こうしたことを政治的な「議論」で片付けようとするとややこしい話になりますが、客観的な事実がそこにあれば、議論する必要すらなくなるだろうという思いが、僕にはあります。市民の人たちは、自分の地域の水道局はよくやっているとか、まったくダメだとか、漠然と淡い期待感もしくは淡い絶望感みたいなのを持ってるんですね。それに対してFractaやTEKKONの技術がもたらすものは、今あなたの地域の水道局、水道は、こういう状況にあるとか、あなたの住んでるエリアの電柱は他の地域と比べてこれぐらい傾いているとか客観的に示せることです。
半分科学技術、半分市民の力を使うことによって、自分で撮った写真で自分の地域が他と比べてどのような状態かを客観的な事実だけを突きつける。それが良いとか悪いとか、言わない。だけど、それで皆は分かってくれるはずだという、僕の僕なりのエンジニアとしての市民に対するメッセージで、やりたいことですね。

岐部 日本も少子高齢化に入ってマイナス成長の可能性もある中でも、インフラは天から与えられたものという感覚が日本人にはまだ強い。これからは、自分たちが参画して自分たちでインフラを運営し、生活環境を守らなければならない。環境問題と同様にインフラも我々が“見える化”して、コスト構造や将来かかる費用などを明らかにしていくので、それを市民の皆さんに正面から捉えてもらい、皆さんがそのマネジメントに参画していくことが必要です。安全で美味しい水を飲みたければ自分たちも経営に参画していくしかないのです。そのような国にならなければ日本の未来はない、でもそれができるようになったら、日本のインフラはまた世界トップの国になれると思っています。日本でそのための新しいエコシステムをつくっていきたいと考えています。

(文責:インフロニア・ホールディングス/infOinf Inc)

2023年秋 シリコンバレーにて
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