INFRONEER Holdings Inc. INFRONEER Holdings Inc.
対談

デジタル技術でつなぐ、市民とインフラの未来

加藤崇
Whole Earth Foundation 創業者・CEO
Fracta会長
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岐部一誠
インフロニア・ホールディングス株式会社
代表執行役社長 兼 CEO

なぜ、インフラ(水事業)に取り組むようになったか。“マーケットの可能性”

加藤 実はインフラに取り組む予定はありませんでした。2013年、アメリカ国防総省主催のヒト型ロボットの世界大会(DARPA Robotics Challenge Trials 2013)に出場したのをきっかけに、米GoogleにSCHAFTを売却し、ロボット技術関連の話が僕のところに多く舞い込んでくるようになりました。その中で特に僕が注目したのが東工大の技術シーズを利用した配管点検用の蛇型ロボット技術でした。この技術を商業化してみたいと思った。しかし、「配管を検査できます」と言ったところで、マネタイズは難しい。市場調査を行う中で、石油精製所の熱交換器に使われている配管をつぶさに検査することができれば、お金になることが分かってきました。そこで初めて、石油産業やガス産業に対する接点ができたのです。
そこから、石油やガスの展示会を視察し、自らも出展、また実際の石油精製所に行き、市場に関する知見を深める中で、石油やガス関連の配管というものにたくさん出会いました。ただ、石油とガスは認証を取得するだけで数年単位の月日がかかること、より単純で安価な手法があることが分かってきた。だったら水がいいんじゃないかという話になったのです。そのうち、蛇型ロボットで、オークランドの水道会社から6000km相当ぐらいの配管を全部調べてくれという話がきた。でも蛇型では6000キロは走れない。だから精度が多少落ちようと、解析ソフトウェアを作ってしまうのが良いのではないかと技術のスコープが変わっていったのです。地下に埋まっている水道配管に関して、写真で撮影するように、ソフトウェアを使って状態監視できれば革命的だ、マーケットがあるんじゃないかと考えた。やっぱり起業家はそういう観点から、市場の大きさを片目で見つつ、そこに当てられる技術アドバンテージがあるかをしっかり確認しながらマーケットインしていきますから、気づけば、インフラに両足を取られていたという感じですかね。

岐部 私が水道や下水に着目した理由は、マーケットです。投資家、特にペンションファンド(※1)の年金資産の運用者たちがセカンダリーへ投資する。アメリカの年金運用の2割から3割はインフラです。年金運用は株式と違ってボラティリティが小さく、長期間安定するものを好むからです。その年金運用者が一番好むのがインフラの中でも水なんです。生活に一番密着したものが最もボラティリティがありません。リーマンショックが来ても水は使うわけです。だから、景気や経済、パンデミックなどの影響がないインフラは、水や下水なんです。日本で水道事業をやろうという話をすると、水道なんか儲からない、下水なんかなぜ儲かるのですか?となります。ヨーロッパのように年金ファンドにイグジットするビジネスモデルを日本で最初にやることを考えた時に、実は水道が一番セカンダリーのマーケットで人気があるのではないかとなったのです。
イギリスでは、既にITやデジタルによるマネジメントになっていて、劣化診断はまだ一部しか行われてなかったですが、オペレーションはかなり効率化され、省エネやエネルギーCO2削減などの時代を先取りしていました。見えないものの管理・マネジメントがいかに大変か、一方でそこがポイントだということは、私も土木職出身なので理解できます。しかし、ここにITやデジタルといったシステムで状態観測、監視ができ、将来的にデータドリブンで劣化予測もできできるとなると、ビジネスの可能性がある大きく広がることが分かります。

グローバル視点からみた日本のインフラの課題、特異性と優位性

岐部 日本の特異性は、コスト高だと思います。そして、コストは税金と国民の負担で賄っているのにそれが国民に知らされていない状況です。

加藤 日本とアメリカやイギリスを比較した時に、日本の水道は優秀だ、漏水率が低い、配管も綺麗でインフラ大国だ、と言われがちです。でも、実はファイナンシャル大国にはなっておらず、ある意味では非常に効率の悪い投資のやり方をしてきたと思っています。非効率を、国民の血税で埋め合わせてきたわけです。

岐部 まず大事なのは、“見える化”することです。どこに無駄があり、それが欧米などのマネジメントと比べて何が違うのかを考える。日本のマネジメントはエンジニアリング視点が強い。私も加藤さんも、もともとエンジニアだから少々コストがかかってもいいものを作りたいという気持ちもわかります。ある意味美しい姿ですが、ファイナンスの観点から、コストは誰が負担して技術はどこまで極めるべきか、100点を目指したらその負担は誰にいくのか、そういった議論がありません。高度経済成長下では、コストに対しては誰もそんなに注目していなかったということです。

日本、世界のインフラの共通課題“白日のもとにする”

岐部 日本は課題先進国と言われますが、インフラの維持管理に関しては、先にヨーロッパなどの方が課題に直面しています。

加藤 日本もアメリカもヨーロッパも、インフラに関しては、事故が起きてから驚くというパターンは全く同じで、その時になって、なぜこうなったのかと、皆怒り始めます。ただ、「造ってから既に300年も経過しているからなのです」と言うと、皆納得する。だから、我々の技術の一つの意味は、そういうものをつまびらかにする、皆の白日のもとに晒すことだと思っています。ソナー(※2)のように埋まっているものを皆に見せることができれば、どれだけインフラが劣化しているのかが分かりますし、分かれば直そうという気持ちが自然と湧いてくる。病気にかかったことを認識することを、「病識」と呼ぶそうです。自分が病気だと思っていない人は、当たり前ですが治療を受けようとはしません。だから、まずその人が病気であることを分かってもらうために、検査を受けてもらい、客観的事実に基づいて、病識を持ってもらうことがスタートだと思っています。

岐部 インフラの中で見えないものは、それをいかに可視化させるかが重要です。実際に掘ったり、取り外したりして確認するのではなく、それを予測できるようなシステムを作る。それはデジタルやICT、センサーが発達したことでできるようになり、更にそのデータを使ってアルゴリズムができると予測の精度が格段に上がりますね。

Fractaの劣化診断“治験と変換”

岐部 直近の課題は、データをいかにとるかです。ヨーロッパの先進的な大都市の水道管には、大量のセンサーが埋め込まれている。センサーが多ければ多いほど、精緻なデータ取りができるようになりますが、センサーやシステムに投資をしながら、マネジメントを効率化してマネタイズしていくっていうことが、大事なわけです。日本では、紙やPDFの情報はありますが、それではデータとして扱えませんし、それを使える電子データにするには、入力など時間もコストもかかりすぎます。だからやっぱりセンサーがいる。自動的にデータがクラウドに集まってくる仕組みが必要です。

加藤 水道配管の表面に小さな穴や亀裂ができ、漏水に至る確率計算の精度をさらに向上させるために有効な手段の一つは、インフロニアさんのコンセッション事業拡大を通じて、分析できるデータ量を増やしていくことであり、より多くのデータを用いてコンピュータ内部で実験を繰り返し、モデリングの精度を上げていくことだと思っています。もう一つの手段は、日本のデータ量がまだ十分ではない状況だと仮定した場合に、Fractaがアメリカ、ヨーロッパで得てきた多くのデータを日本版に変換すること。配管の表面に関する劣化の問題、すなわち鉄管の酸化問題は化学的な問題ですから、それが日本にある配管だろうが、アメリカやヨーロッパの配管だろうが、鉄の酸化現象という意味では全く同じわけです。土や配管の種類、湿度や温度などの環境情報を掛け合わせたルールを持っていれば、アメリカで作ったアルゴリズムでも、日本版に変換できるのです。

岐部 医療の治験と一緒で、同じ人間でも海外で治験した薬は日本人の体の特性に合わない場合がありますよね。その場合、治験者と日本人との違いは何で、それに合わせて薬にどう変換していくか、その特性を知った人が勝ちますよね。

加藤 遺伝子上88%同じだから、12%の差分だけはアルゴリズム使って100%を予測していくっていうやり方だと思いますが、同様にFractaの技術をアメリカから日本に逆輸入してくる過程で、こうした手法について、かなりの数の実験を繰り返してきました。

岐部 土の鉄分の影響とか、どこかでわかるわけですよね。そうすると変換をする時の数式の定数や乗数がわかってくる。そうすると、日本のデータが少なくても、同じようなことができるようになる。それが統計の面白いところであり、そういうことが分かってくるのがデータドリブンの面白いところですね。

なぜ、今TEKKONか?
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