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対談

インフラが切り拓く
新しい社会・都市の姿

澤田純
NTT 代表取締役会長
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岐部一誠
インフロニア・ホールディングス 代表取締役社長、
前田建設 代表取締役副社長
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パラコンシステント(矛盾許容)とパーソナライズで
これからの都市に多様性をつくり出す

岐部 日本は海外に比べてパブリック(公)の概念が狭いように感じます。プライベート(私)の権利が強く、公と私の線引きも強いですが、本来は個人の権利を主張するだけでなく、それぞれがパブリックの意味と範疇を考え、議論しながら都市をつくる必要があります。愛知アリーナでは景観条例の課題がありました(註2)。行政として規制を設定する意味と、民間に自由に発想させる意味、二律背反に見えるけれどもこの両方を目指すことが、今後重要になりそうです。

澤田 包括的な経済循環やウェルビーイングを含めて、ビジョンを持って、議論を尽くしながら今までのやり方を変える必要があるということですね。ただ、そうして新たにつくられるものが成果を生む一方、劣化していく「今あるもの」、つまり日本の土木などのインフラをどうするかを考える必要があります。これから人口が減り税収も少なくなるなかでこれらをどう維持するか、あるいはいよいよ畳むのか、インフラのリストラクチャリングが必要です。

岐部 コンセッションの考え方でいけば、いずれヨーロッパのように料金を徴収していない道路も民間がマネジメントするようになるのではないでしょうか。そのためにはデジタル化が鍵となるでしょう。官が公共サービスとして行うこれまでの手法に縛られると、小さなまちでは税収が足りず、整備できなくなってしまいます。しかし民間が入り、かつデジタルによってシステムを共通化すれば、ひとつの自治体で予算とマネジメントを完結させる必要がなくなり、効率的に実施できる可能性が出てきます。

澤田 一方、NTTが構想している次世代情報通信基盤の IOWNをはじめ通信がさらに進化すると、例えば道路や水道などが整備されていないエリアも衛星通信で繋げられるようになります。そうすれば今後期待される自動運転技術とも連携して、生活上必要なモビリティを標準化したモデルで実行することも可能になるかもしれません。デジタル技術はパーソナライズが可能だからこそ、どう展開し実現するか、考える力が重要になります。

岐部 インフロニア・ホールディングスのスローガンは「Challenge the Status Quo」、既成概念に挑戦するという意味を含んでいます。パラダイムシフトで縮小していく社会の中で、デジタルのような新しいイノベーションによって、社会や都市はどうあるべきか。その提案の先駆が愛知アリーナなのです。だからこそ、他のエリアにもこの挑戦が繋がっていってほしいですね。

澤田 リアルとバーチャルの融合、コンセッション方式、BS経営など、愛知アリーナの例は道路や橋など広い範囲に波及できる可能性を持っています。インフラ構築に関して、民間は請負業を担うという受身の概念から脱し、世の中の根本的な概念を変えるべき時代にきているように思います。

(2022年 9月 1日、NTT本社にて 文責:新建築社編集部)

澤田純氏(左)と岐部一誠氏。
澤田純氏(左)と岐部一誠氏。
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