INFRONEER Holdings Inc. INFRONEER Holdings Inc.
対談

インフラが切り拓く
新しい社会・都市の姿

澤田純
NTT 代表取締役会長
×
岐部一誠
インフロニア・ホールディングス 代表取締役社長、
前田建設 代表取締役副社長

新しい価値を提案する“現代版コロッセオ”
──多方向のベクトルでつくり上げるパブリック

岐部 愛知県新体育館(以下、愛知アリーナ)は、官民連携やインフラとの結び付き方など、現代の日本が抱えるさまざまな課題に応える挑戦的なプロジェクトです。私は愛知アリーナを“現代版コロッセオ”だと思っています。歴史を紐解くと、ローマ帝国はわざわざ数10km離れた水源から上水道を整備したり、アッピア街道などの道路を整備することで人や物の流通を促し、版図を広げました。都市の発展にはインフラが不可欠なのだと分かります。一方でコロッセオは“パンとサーカス”のサーカスで、帝国の求心力を高めるため市民に娯楽として提供されましたが、都市の発展の様相を見ると、コロッセオもまた都市をかたちづくるインフラとして重要な役割を担ったとも解釈できます。そう考えた時に、デジタルツインを念頭に置いたインフラ整備を行った愛知アリーナは、日本経済の今後を見据え、行政と民間が協力してつくり、全世界へ新たな体験を提供する、現代のコロッセオなのです。

澤田 今回画期的なのは、個々人に合わせてパーソナライズできるデジタル技術を活かして、一律・標準ではなく個別のサービスが提供できることです。これまでのインフラは施政者によって、ある目的の実現のために整備されることがほとんどでした。しかしデジタル技術により、自席からの視点だけでなく、グラウンド上や俯瞰して見たい人はカスタマイズできるなど、受け手自身による多様な情報の獲得を叶えることができます。複雑化する社会においては、この多様性に応える通信技術とその運用が私たちに求められています。全世界に時間差なしに提供できる共通したシステムとパーソナライズ、一見矛盾するものが共存できる方法を目指しています。アリーナだけでなく、上下水道や道路や土木、今後さまざまなインフラを考える上で、デジタルは欠かせないものとなるでしょう。一方で人間には身体がある以上リアルな世界も不可欠で、プレイヤーと観客が体験を共有する空間もまた重要です。

岐部 今回これらを実現し、世界標準のアリーナをつくるために、日本初となる BT+コンセッション方式を採用しました。これは行政の予算のみで建て替えようとすると賄えない部分を、建設・移転(BT)および公共施設等運営権付与(コンセッション)を組み合わせ、前田建設と NTTドコモを代表とする構成企業が一緒になって、質の高いサービスの提供や収益の確保を図るスキームです。さらに協議の末に、所有者である愛知県は私たちに事業内容の裁量権を認めてくれました。

澤田 民間事業者が公共施設の運営内容を決められることは重要なことですよね。コンセッションとはいわばバランスシート(BS)経営(註1)です。企業活動と同様に、中長期的な収支を考えた BS経営をしていけば、単年度予算で区切る行政ではできない将来に対する開発・投資も推進できるはずです。これは官民が積極的に連携して新しいまちづくりとインフラ構想を考えるべき理由になると共に、デジタルにより多方向かつ多様性が生まれつつある社会に応えることにも繋がります。

ローマ、コロッセオの遺跡。
ローマ、コロッセオの遺跡。
パラコンシステント(矛盾許容)とパーソナライズでこれからの都市に多様性をつくり出す
1 2