社外取締役 森谷 浩一
社外取締役 米倉 誠一郎
社外取締役 橋本 圭一郎
社外取締役 村山 利栄
社外取締役 髙木 敦
社外取締役 小口 光
橋本インフロニアでは、指名委員会等設置会社の仕組みを活かし、経営のモニタリング機能と業務執行機能を明確に分離することで、公正性と透明性を確保しつつ、迅速な事業運営を可能にする体制づくりを進めてきました。2025年からは、取締役会を代表執行役社長1名と6名の社外取締役のみで構成する新たな体制へと移行しています。この決定は、岐部社長からのご提案を受けて、私たち社外取締役が議論を重ねた結果、「執行役の責任と権限をより明確にする」という条件付きで承認したものです。具体的には、執行役の担当を機能別とし、事業会社担当執行役を除いて持株会社と事業会社の兼務解消と代表執行役の専任化による経営責任の明確化、取締役会直轄の経営監査部が四半期ごとに執行側の活動を評価・フィードバックを行う仕組みを徹底してグループ全体を俯瞰するモニタリング体制を確立することなどが、その条件です。
社外取締役/取締役会議長/監査委員長/指名委員
米倉私は、新しい取締役会のコンセプトは「自由と規律」だと捉えています。執行側は、与えられた自由のもとで勇気とスピード感を持って新しいことに挑戦し、私たち監督側は、その自由が正しい方向に機能しているかを「結果」という明確な規律で評価します。この両者の関係性がしっかり機能してこそ、経営のモニタリング機能と業務執行機能の明確な分離が実現します。ここで重要なのが、規律とする「結果」が単なる短期的な数字ではなく、中長期的な投資や施策がどう実を結んでいるか、数字で判断できない部分も含めて評価するということです。このような評価を行うためには、プロセスの理解を深めることが必要であり、執行側との密なコミュニケーションが欠かせません。
森谷米倉さんが述べられたように、モニタリング機能と業務執行機能を実効性のあるものにするには、形式的なチェックだけではなく、「なぜこの施策が必要だったのか」「なぜこの結果になったのか」という背景にまで踏み込んだ議論が欠かせません。こうした対話を重ねることで、企業価値向上につながる具体的な施策が見えてくるはずです。どのような仕組みづくりをして、実行に移していくのか。私たち社外取締役に与えられた重要なミッションに対して、時間軸を意識しながら覚悟をもって臨まなければなりません。
村山今回の決断は一見大胆に見えますが、設立からわずか3年半でスピード感を持って大型M&Aなどへの挑戦を重ねてきた当社の歩みを考えれば、「あるべき姿」であり、ごく自然な流れだと思います。もちろん社外取締役の責任は一層重くなりましたが、私たちには、社外取締役同士の議論や執行役との意見交換を重ね、他社にない密度でコミュニケーションを積み上げてきた基盤があります。その自信があるからこそ、この難しい舵取りもやり遂げられると確信しています。
髙木多くの企業がモニタリングモデルへの移行に苦戦しており、形式的な要件は満たしていても、実質的なガバナンスが企業価値の向上に結びついていない現状です。資本市場もそこに疑問を抱いており、2025年4月に経産省が「取締役会5原則」※の中で改めて「稼ぐ力」を強調したことも、まさにそうした問題意識の表れではないでしょうか。モニタリングボードが機能するには、マネジメントボードとの確かな信頼関係が不可欠です。今回の改革で執行役の兼務解消や権限強化が進みましたが、今後は役割を明確に分担し、信頼をさらに深める必要があります。社外取締役がマネジメント領域に踏み込まないことも重要です。私たちは、トップダウンの視点でリスクと将来課題を見極め、それを議論と監督につなげていくように努めていくべきです。
小口新たに社外取締役に就任しました。予測困難な時代において、既存の発想の延長線上ではなく、一からものを考え、組み立てていく経営が求められています。社外取締役の役割は、執行側が描くグランドデザインや戦略に対し、外部の視点からリスクや機会を冷静に見極め、適切な検討とリスク対応、多角的な視点を提供することだと考えています。当社は、難しい局面にもしなやかに対応し、先例や既存の枠組にとらわれず、成長を続けてきた企業だと認識しています。
私自身、クロスボーダーのM&Aなど日本企業の海外事業に多く関わって参りましたが、規制環境の複雑さが高まる一方で、意思決定のスピードは加速度的に高まっています。そうした環境の中で、執行と監督の分離を徹底した今回の取締役会の体制変更は、時代の必要性に即した重要な変革と感じています。
橋本新中期経営計画「 Medium-term Vision 2027」では、中長期計画で描いてきた成長シナリオの2期目として、今後の3年間を「これまで積み上げた基盤を土台に投資事業を拡大し、収益化へつなげるフェーズ」と位置づけています。財務面ではD/Eレシオを1.0以下にする方針を掲げ、企業の安定性を意識した点や、EBITDAを新たな経営指標として導入したことを高く評価しています。また、2025年4月にアクセンチュアと連携して「インフロニアストラテジーアンドイノベーション(ISI)」を設立するなど、DX分野への積極的な成長投資にも期待しています。結果は今後の取り組み次第ですが、新しい挑戦を計画に組み込む姿勢は当社らしく、将来の収益化に向けて大きな意味を持つと考えています。
米倉多くの企業では、中期経営計画が「形式的に作らなければならないもの」として扱われ、経営企画部門が膨大な時間をかけたにもかかわらず、実際の経営改善や成長に結びつかないケースが少なくありません。こうした形骸化した計画であれば、その存在意義は乏しく、なくても良いと考えてしまいます。しかし、今回の当社の中期経営計画は、そうした慣例的なものとは明らかに異なります。経営陣が「この方針で進む」と強い意志を示し、取締役会も「ならば徹底的に監督する」と覚悟を固め、それぞれが役割と責任を明確にした、いわば真剣勝負の計画です。だからこそ、単なる数値目標の羅列ではなく、経営を動かす実効性のあるツールとして運用されるべきだと考えています。
村山私も計画の数字については、固定的な目標に過度に縛られるべきではないと考えています。建設業は受注産業であり、外部環境の変化を大きく受ける業態。景気の動向や政策変更、大型案件の有無によって、前提条件が一変すれば計画の数字はすぐに現実と乖離してしまいます。実際、新中期経営計画の策定後には大型買収があり、市場リスクも大きく変化しました。だからこそ重要なのは、数字そのものではなく、その背後にある戦略意図と、それをどう実現するかというプロセスを明確にし続けることです。数字は目安であって絶対ではなく、環境の変化に応じて柔軟に見直せる仕組みであるべきだと考えています。
橋本私たち社外取締役は株主から経営監督を委託されており、その判断軸は「中長期的な成長」と「企業価値の向上」です。これを評価するには一定の数値目標や方向性が必要であり、その意味でも中期経営計画は必要不可欠です。ただし、3年間固定の計画が最適とは限りません。村山さんが指摘されたように、環境変化に応じて柔軟に見直す「ローリング型」の運用を取り入れ、中期経営計画を生きた経営ツールとして活かすことも検討すべきでしょう。私たちは監督の立場から、その運用状況をしっかりと見届け、必要に応じて適切な助言を行っていきます。
森谷新中期経営計画では、成長投資と恒常投資を合わせて約3,000億円規模の投資を計画していますが、日本風力開発の買収を含む過去の大型投資の影響で、この期間中から次期中計にかけて数千億円規模の借換期が到来します。財務面から見ると、本中期経営計画は、まさにターニングポイントと言えるものです。格付を意識した財務・資金調達戦略は不可欠であり、ROEやD/Eレシオ、投資対リターンの妥当性といった財務・投資規律が確実に守られているかを、私たち社外取締役が継続的にモニタリングする必要があります。また、M&Aについても、買収して終わりではなく、グループとして統合し、企業価値の向上やキャッシュマネジメントへのプラス効果が実現できているかを注視していく必要があります。
髙木建設業は受注産業であり、市場環境の変動リスクを常に抱えています。だからこそ、固定的な数値目標に固執するのではなく、変化に柔軟に対応する経営姿勢が求められます。さらに現在は「ものをつくる」こと以上に、「つくったものが生み出す感動や体験」に価値が見出される時代です。こうしたニーズに応えるには、請負事業の枠を超え、上流工程から価値を創出する脱請負事業の加速が不可欠です。もう一つの重要な課題は供給力不足です。少子化による人材減少により、従来の人海戦術は限界に達しています。当社はこの課題に対し、ISIやDXの活用、グループのスケールメリットを活かした調達の構造改革に本気で取り組んでいます。こうした挑戦は短期的には成果が見えにくいものの、長期的な企業価値向上には欠かせません。だからこそ、資本市場に向けた積極的な情報発信と対話を通じて、当社の挑戦の意義を理解してもらう努力が必要です。
小口中期経営計画策定のプロセス自体も重要です。新たに参画した企業も含めたグループ全体の方針を絞り込み、優先順位を明確化したうえで社内外に発信している点に大きな意義があります。一方で、官民連携(PPP/PFI)事業や再生可能エネルギー事業といった重点領域は、各国の制度や規制の変化の影響を強く受けます。法制度や政策動向を把握し、将来の変化にも機敏かつ能動的に対応する姿勢が重要であり、今後もますます体制を強化していく必要があると感じています。
橋本社外取締役の役割は、経営陣が果敢な投資を進める際のリスク管理にとどまらず、その意義や狙いを市場にわかりやすく伝えることにもあります。内部では、取締役会直轄の経営監査部によるモニタリングを通じ、経営陣の意思決定や戦略の実行状況を継続的に確認していますが、外部に対しては、社外の視点から投資やM&Aの背景を説明し、企業価値最大化に向けた橋渡し役を果たすことが重要です。
森谷その意味でも、取締役会は単なる承認機関ではなく、経営陣と緊張感を持って向き合う場でなければなりません。私たちは委員会や個別面談も活用し、「この施策の背景は何か」「どのようなリスクを見込んでいるのか」といった問いを投げかけています。こうした積み重ねによって、内部統制は形式的な仕組みから実効性あるものへと深化します。成長投資を支えるには、このプロセスの継続的な強化が不可欠です。
村山当社はこれまで果敢な成長投資を続けてきましたが、その成果が市場で十分に評価されていないのが現状です。投資家が求めているのは単なる数字ではなく、投資の意義とリターンを明確に描いたストーリーです。財務健全性の確保と共に、こうした戦略意図をわかりやすく伝えることこそが、企業価値向上に向けた取締役会の重要な使命だと考えます。
髙木資本市場の視点から見ると、当社は果敢にリスクを取っていますが、そのリスク管理の実態が十分に伝わっていません。成長投資は成果が顕在化するまで時間がかかるため、並行して短期的に利益貢献できる施策も打ち出すべきです。例えば、系統用蓄電池事業など比較的早期に収益化できる領域への拡大は、その一例でしょう。こうした複眼的な戦略が市場の期待値を引き上げることにつながるはずです。
小口当社はM&Aの推進を重要な戦略として位置付けていますが、買収後のPMIは企業価値向上の成否を分ける重要な局面です。戦略段階で見極め、進捗を適切に管理しながら、スピード感をもって確実に成果へとつなげていくことが重要です。私は、国内外の知見や国際的なネットワークを経営に還元し、意思決定の質とスピードを高める役割を果たしたいと考えています。執行側にはない外部の俯瞰的な視点でリスクや機会を見極め、適切にリスク管理をしながら、必要な変革を適時に実施していくための助言を行うことが、社外取締役が果たせる価値と考えています。このことは、当社が重要な節目を迎えるタイミングで、新たに社外取締役として迎え入れられた私に課された大切な役割だと思っています。
髙木当社は長期的な成長を見据えてM&Aを含め様々な投資を行っていますが、その成果がまだ株価やバリュエーションに十分反映されていないのが現実です。PBR1倍超を実現するには、ROEの改善や資本コストの低減を市場が納得できる形で明示することが不可欠です。いかに戦略が意義のあるものであっても、それが市場に伝わらなければ評価は得られません。M&Aや大型投資の背景や収益化の道筋について、経営陣の考えを理解し、客観的な視点も交えながら説明できるのは、私たち社外取締役ならではの強みです。資本市場の声を取締役会に反映させ、統合報告書やIRの場でも積極的に関与し、当社の取り組みを市場に向けて力強く発信していくべきだと考えています。
村山長年金融市場で日本企業の競争力低下を見続けてきた私にとって、インフロニアの果敢な改革姿勢は希望そのものです。既得権益や業界慣行に縛られず、大型M&Aや組織改革を矢継ぎ早に進めてきたこの会社は、まさに変革の旗手だと思います。だからこそ、PBR1倍割れという現状は、私たち社外取締役にとって重い責任と受け止めています。特に証券出身の私や.木さんには資本市場からの評価と理解を高めていくための発信と対話について、より一層注力する責務があります。IRは執行側だけの役割にとどまらず、社外取締役も投資家との対話にも積極的に関わり、当社の成長戦略と企業価値を直接伝えていく必要があると考えています。
森谷持続的な成長を下支えするには、人財戦略の実効性が欠かせません。中計の柱に掲げられた「体質強化・改善」は、単なるスローガンではなく、経営人材を適切に育成・選抜するための実践的な仕組みです。サクセッションプランを形骸化させず、毎年レビューと改善を重ねながら進化させていかなければなりません。次世代のリーダーを育てることは、ガバナンスの要であり、指名委員会の重要な使命です。
米倉当社が掲げる「どこまでも、インフラサービスの自由が広がる世界。」というビジョンには、国内外に多様な成長の可能性が存在しています。国内の老朽化したインフラ再構築という巨大市場だけでなく、日本が誇る上下水道や道路、港湾といった高い技術を輸出産業としてグローバルに展開する道も見えています。国家財政が硬直化する中、PPPや民間資金を活用した効率的かつ持続可能なインフラ整備は、日本の将来を左右する重要なテーマです。私は社外取締役として、この意義を投資家や社会に力強く発信し、共感と支持を広げていきたいと思います。
橋本社外取締役の最大の使命は、経営陣が果敢に挑戦する際に、攻めと守りのバランスを見極めることです。必要なリスクは取り、取るべきでないリスクは抑える。その監督の質こそが、企業価値を左右します。私たちは、ガバナンスと対話を両輪として、当社の持続的成長を支えるべく、社外取締役としての責務を果たしていきます。