社外取締役座談会

グループのスピード感ある成長を支援
~インフロニア設立から3年、社外取締役が語る~

社外取締役 森谷 浩一

社外取締役 米倉 誠一郎

社外取締役 橋本 圭一郎

社外取締役 村山 利栄

社外取締役 髙木 敦

グループのスピード感ある成長を支援
~インフロニア設立から3年、社外取締役が語る~

社外取締役(左より):森谷 浩一/米倉 誠一郎/橋本 圭一郎/村山 利栄/髙木 敦

──インフロニアグループの歩みと展望について

ビジネスドメインを定義し直してイノベーションを創出

橋本インフロニアは2021年10月の設立以降、「総合インフラサービス企業」へと着実に歩んできました。未知の領域にチャレンジしていくため、機関設計としては建設業界で初めて指名委員会等設置会社を選択し、高度なガバナンス体制による適正なリスクマネジメントに取り組んできました。取締役による経営と執行役による業務遂行を明確に分離したことが、経営における意思決定のスピードアップにつながっています。私たち社外取締役も含めた取締役は重要な経営判断の議論に集中できています。
当社グループは3事業会社を上場廃止すると同時に、持株会社を新規上場することにより、持株会社の求心力を高め、事業会社は自由度を失うことなく、遠心力を発揮できる体制を目指しました。経営層と従業員との対話を積極的に行ったほか、持株会社と事業会社間で人事交流を進め、収益力、技術力の向上や顧客基盤の拡大などにおいて、グループとしてのシナジーを生み出せるようになりました。

社外取締役 橋本 圭一郎
取締役会議長/監査委員長/指名委員

米倉「INFRONEER Vision 2030 中長期経営計画」では、2030年度に営業利益1,000億円、純利益700億円、ROE12%を経営目標に掲げています。従来のような請負中心では達成が難しい数字です。短期的結果に一喜一憂するのではなく、長期的な視点から経営を行っていくことが重要です。多くの日本企業が事業領域を狭く定義しがちな中で、当社グループはゼネコンから「総合インフラサービス企業」へとビジネスドメイン(事業領域)の変更に果敢に挑戦し、世界に飛躍することを宣言しています。そのためには、まず長期的な視点での人材育成とスピード感のある事業展開が必要となるでしょう。
当社グループが創出する価値を従来のゼネコンの枠ではなく、ハードからソフトにわたる「インフラの整備」の中に位置づければ、まさに発展途上国だけでなく戦争・紛争で破壊された地域においても救世主になれるのです。

森谷通常なら1、2年はかかるホールディングス設立を実質半年でやり遂げたスピード感は目を見張るものがあります。設立当初は課題もありましたが、3年かけてグループ経営の体制を整備し、これからが成長に向けた正念場です。
2030年度に営業利益1,000億円という目標を達成するには、社外取締役であっても現場の状況を知らなければいけません。私自身は製造業出身のため、機会があれば現場の声を聞いてオペレーションについて理解に努めています。現場に足を運ぶことで、何が不足しているのか課題も見えてきます。現場の課題意識を理解した上で、経営の視点から解決していくことも取締役の役割だと考えています。

市場との対話を進め、PBRの向上に挑む

村山私は金融出身で、建設不動産セクターをアナリストとして見てきました。その経験からすると、ホールディングスを設立すると決定した以降、これまでの3年半はポジティブサプライズの連続です。建設セクターは横並びの意識が強く、保守的な内需系企業が多いイメージが強いのですが、当社グループはゼネコンの枠を越えて成長することを目指しています。
2030年の目標はゼネコン業態のままであれば、夢物語の数字だと思います。けれども土木、建築、舗装、機械に加えてインフラ運営、そして新たに日本風力開発が加わるなど、当社設立時には想像できなかったようなビジネスドメインの変更に、スピード感を持って挑戦することで、その実現に近づいてきています。社員の方々は本当に大変なチャレンジをされているわけですが、このチャレンジはオールドファッションな業界の中でビジネスドメインを変えていくという観点で、将来高明なビジネス誌にケーススタディとして取り上げていただけるかもしれない、それほどのことをやっているのだと、社員の皆さんを励ましています。

髙木2024年3月期は過去最高益を達成しましたが、私たち社外取締役を含めて、経営陣は危機感を持って経営に取り組んでいます。当社設立時に900円台だった株価は、現在は1,200円台(座談会実施日時点)になりましたが、PBRは0.8倍程度と1倍を大きく下回っており、市場からの評価は十分とは言えません。2030年度の目標達成に向けて、一歩一歩着実に数値目標を達成し、企業価値を高めていく必要があります。IR活動も含めて市場との対話を進めて、当社グループの取り組みを積極的に発信していかなければいけません。

──日本風力開発のグループ入りにあたって

日本風力開発は今後の成長の重要なピース

橋本2024年1月には日本風力開発が新たにグループに加わりました。今後当社グループが成長していく中で、日本風力開発は重要な役割を担うと感じました。買収額が2,000億円を超えることについては様々な意見が出ましたが、最終的には取締役全員が賛成しました。事業会社単体では、これだけの規模のM&Aを実現するのは容易ではありません。グループ全体の資金力があったからこそ実現できたM&Aです。
日本風力開発が加わり、「総合インフラサービス企業」を目指す上で選択肢が飛躍的に増えました。取締役会として経営資源をどのように配分していくのがグループの成長に最善かを議論していきたいと考えています。

髙木建設業界のアナリストを務めてきた経験の中で、投資家に伝えたいのは、建設事業において「設計・調達・建設」を追求していてもバリュエーションは高まらないということです。総合インフラサービス企業を目指す上で、長期的なバリュエーションを上げていくには、再生可能エネルギー事業は重要なピースであり、日本風力開発の買収は絶対に必要な投資と考えていました。

社外取締役 米倉 誠一郎
指名委員/報酬委員/監査委員

米倉21世紀はSDGsの時代です。地球環境の保全と持続的な成長の両立が求められます。地球環境を守りながら企業として成長を続け、発展途上国の成長にも寄与していくことは日本企業が強みを発揮できる領域です。
当初は日本風力開発を買収するなど思いもしませんでしたが、インフラ事業の新しいビジネスモデルをゼロから作り上げるのは困難で、まさに時間(スピード)と環境型技術を買うためのM&Aでした。M&Aでは買収後の企業文化や風土の統合が重要になります。多様な会社が集まる当社グループであれば、この統合をうまく進められるのではないかと感じています。

村山リスクとリターンという観点から見ると、今回の大型買収には当然リスクはあると思います。ただ、私は “No risk, No return.(リスクを取らずしてリターンは得られない” という言葉の通り、総合インフラサービスという大きな絵を描く中で、日本風力開発はこれまで当社グループになかった要素であり、リスクはあっても買収すべきだと思いました。
M&Aのリスクを最小化し、統合効果を最大化できるかはM&A後の統合プロセスを指すPMI(Post MergerIntegration)次第です。統合の対象範囲は、経営、業務、意識など統合に関わる全てのプロセスに及びます。経営側が日本風力開発をグループ内にどう統合していくか取締役として高い緊張感を持って意識していかなくてはと考えています。
社員の皆さんの話をお聞きして、日本風力開発は非常に多様性に富んだ会社だと感じました。大半がキャリア採用で様々な能力や経験の人たちが集まった会社です。今後、日本風力開発がグループの多様性を高めてくれることを期待しています。

事業領域の拡大がもたらす今後の成長を市場に訴求する

森谷日本風力開発を買収して終わりではなく、ここからが始まりです。
今後どのようにロールアップして日本風力開発の企業価値だけでなく、グループ全体の企業価値を向上させるかが勝負です。企業価値を高め、キャッシュを創出し、新たなM&A等の成長戦略の資金を捻出していかなければいけません。
グローバル市場に打って出るタイミングでは、M&Aがますます重要になるでしょう。その意味では、日本風力開発をどうやって成長させるかは最初の試金石になるでしょう。
現在の株価を見る限り、投資家には日本風力開発の企業価値がまだ伝わっていないように思います。2030年度の目標達成に向けてきちんと成果を出して、私たちの考えが正しかったことを証明する必要があります。
日本風力開発が、総合インフラサービス企業として成長するための重要な要素であることを、そしてそれが営業利益やキャッシュを確実に生み出しグループ全体の企業価値を高めることをより具体的に投資家に対して説明することが重要です。例えば買収に投じた2,000億円のリターンをどれくらいの期間で得られるのか示さなくてはいけません。

社外取締役 森谷 浩一
指名委員長/報酬委員/監査委員

髙木私自身は株価について別の見方をしています。インフロニアの株価が低迷したのは、CB(転換社債)を発行した後です。日本風力開発の完全子会社化では、実は株価はネガティブには反応していません。CB発行による買収資金の調達に対して、将来的な株数増から一株当たり利益の希薄化が懸念されたことが株価に影響したのでしょう。市場は今回のM&Aに対し、それなりの評価をしてくれているのではないでしょうか。
機関投資家は長期的な観点から株式を保有するといっても四半期ごとに投資先のレビューをします。買収の成果が出るまで3年や5年も待てないのが実際でしょう。ただ、私たちはもう少し長期的な時間軸で総合インフラサービス企業を目指しています。市場と丁寧に対話を繰り返し、着実に利益を出しながらコミュニケーションをとる必要があります。

──ガバナンス強化に向けての取り組みについては

内部統制システムでグループガバナンスを強化

橋本取締役会議長と同時に監査委員長を務めている立場から言うと、グループ経営を進める中で、まずは内部統制システムを通じたモニタリングが重要であり、そのために、内部統制システム自体の見直しを毎年実施し、常に改善に努めています。
また、経営の迅速性は重要ですが、執行側に多くを権限委譲し過ぎて経営側から事業の全体像が見えなくなってもいけません。業務執行が決められた範囲内できっちりと運営されているかモニタリングすることが肝要です。こうした観点から2023年度の期中には経営監査部が執行役の業務執行報告をダブルチェックする仕組みに変えました。こうした仕組みを取り入れている企業は多くないと思います。

米倉指名委員会では、次の経営者は誰にしようという話より先に、どのように人材育成するかという話題が出てきます。ほかにも監査に関して、リスクばかりを強調して押さえ込むのではなく、リターンも含めて将来戦略の中でリスクについても議論できているのは良い点だと思います。
私は企業が成長していく上で愛社精神というか「同じ船に乗っているという仲間意識」は極めて重要な要素だと考えています。当社が、社員の貢献が株価に反映されその果実を分かち合う仕組みとしての従業員株式給付信託(J-ESOP)の制度も導入したのは、従業員のエンゲージメントを高める良い取り組みだと思います。

サクセッションプランを利用し中核人材を育成

森谷指名委員会の委員長を務めていますが、委員会の大きな役割は、①取締役、代表執行役及び執行役の選解任に関する審議・答申と、②サクセッションプランの作成・運用です。サクセッションプランは昨年度1年かけて策定し、2024年4月から稼働しています。
企業はまず人材育成が重要です。私は次の役員候補たちとできるだけ会話したいと考え、社内の研修会になるべく参加するようにしています。会社の成長にとって、会社の中核になる人材をどれだけ抱えることができるかが勝負になります。会社はサクセッションプランをうまく利用しながら、次の幹部候補生を育て、彼らには愛社精神を持ちながらマネジメントを学んでほしいと思っています。
もう一方で、社内に不足している人材を外部から獲得するルートも作っています。外部から新たに採用した人が将来経営を担う可能性も含めて人材育成を進めていきます。

社外取締役 村山 利栄
指名委員/報酬委員

村山優れた人材の意欲を引き出すため、報酬制度を成果型に変えつつあり、今後もやる気を引き出す制度に改革していきます。若手の執行役員や部長が出てきており、同年代の従業員でも業務パフォーマンスで給与に差が出る体系を取っています。指名委員会を中心として人材育成のプランが出来上がり、次の幹部候補生の育成に全社を挙げて取り組んでいます。社員がイニシアチブを持って会社を変えていける仕組みづくりには力を入れてきました。
一方、社員の多様性はまだまだ不足していると感じます。女性管理職比率は8.3%(インフロニア単体)と低い状況です。建設セクターはもともと女性が少ない業態ですが、外部採用やグループ内交流の活発化で変化が生まれてくることを期待しますし、多様性の推進には引き続き注力していきます。

髙木私が委員長を務める報酬委員会では、経営陣の利益成長マインドの醸成が大きな課題だと認識しています。マインドを醸成するために、固定報酬の比率をかなり下げて変動報酬の比率を上げました。
企業規模や利益規模で見て、これだけ変動報酬の比率が高い総報酬になっている企業は少ないでしょう。経営陣だけでなく社員の報酬も同様です。今後も委員会で報酬体系について検討を深めていきたいと思っています。

──グループの永続成長に必要な取り組みは

インフラの未来を作る旗を掲げて走り続ける

橋本当社グループは本当に多くのことにチャレンジしてきました。経営側が進めたいと考えていることを、後押しするのか、あるいは引き留めるのかを、きちんと判断していくことが社外取締役としての役割だと思います。「ヒト・モノ・カネ」をどのように配分していくか、経営とは突き詰めるとその1点です。
監査というのは企業経営において重要なアンカーです。業務の改善につながるような業務監査だけでなく、経営監査までできるような仕組みにすべく監査委員会では議論しています。ブレーキだけでなく、アクセルを踏めるようにバランスをとっていく必要があります。
従来と大きく変わってきているのが、サイバーセキュリティ関連です。何か問題が起きた時には、会社がダメージを受けるだけでなく取締役会全体が善管注意義務違反を問われかねません。監査部門にもシステムに精通した人材を入れていく時期に来ています。

社外取締役 髙木 敦
報酬委員長/指名委員/監査委員

米倉日本初の「総合インフラサービス企業」を目指すという旗を立てた以上、そこにこだわってインフラの未来を作っていくべきです。グローバル市場への進出も必然となってくるでしょう。例えば、日本の下水道システムは世界的に見ても非常に優れており、欲しがる国は多いでしょう。資金需要が逼迫する国におけるコンセッション事業についても同様です。
世界に打って出るには必要な人材や採用のやり方も全く変わるはずです。例えば、生成AIの「ChatGPT」などはそれ自体以上に応用範囲の広さが画期的です。建設業やインフラ整備でも、新しい知識を応用できる人材が大量に必要で、そうした人材にとって魅力的な企業であり続けなければ良い人材を採れません。目指すべき方向に向けて旗を立て続けて、世界中からインフロニアの理念に共感する人材獲得を進めなければならないでしょう。

森谷グループが永続的に成長していくことを目指す中で、私たち設立時からの社外取締役ができるのは基盤づくり、そして次の成長のステップを築くことの準備です。次に目指すべきは、日本風力開発の事業を成功に導き、グループとしての価値を向上して、創出したキャッシュを更なるグループ全体の企業価値向上に向けて国内外でのM&A等に投じていけば、成長戦略の道筋を確実なものにできるでしょう。そうした成果を、次の人たちに託していくことが私たちの仕事だと考えています。

村山成長に向けてビジネスドメインの変換を推進し、企業価値に結び付けなくてはいけません。そのためには様々な意見を活発に言い合える多様性が重要で、多様な人材が生き生きと働ける企業風土を醸成することが何より大切です。

髙木一橋大学の伊藤邦雄教授による日本企業の価値向上へまとめた提言「伊藤レポート」が出てから今年で10年が経ちます。以前はPERやPBR、ROEなど考慮せずに経営している企業もありましたが、この10年で企業経営の在り方は大きく変わったと感じています。
社外取締役の役割は企業価値の向上だと私は考えます。企業価値に対する考え方はステークホルダーによって異なりますが、PBRが1倍を大きく下回る状況は看過できません。総合インフラサービスという全く新しい業態の企業として評価してもらえるよう投資家とのエンゲージメントを進める必要があります。