南房総の山間部にある約40万㎡の開発区域内に日本初となるプライベートドライビングクラブが誕生しました。前田建設が土木工事と建築工事、前田道路がコースの舗装工事、そして前田製作所が開発した試作機を現場で用いるなど、インフロニアグループの総力を結集したプロジェクトです。
《世界に唯一のドライビングクラブ》というコンセプトを実現するためには、限られた工事期間で大規模な土木工事と建築・舗装工事を同時並行で進め、一流のドライビングコース、ハイグレードな建築物を安全に完成させるという、決して楽な道のりではありませんでした。このプロジェクトに挑戦したインフロニアパーソンの4人に当時のことを振り返りながらお話を伺いました。
──現場におけるそれぞれの役割についてどうお考えでしょうか。また、今回のプロジェクトで各社の強みを活かしシナジーを発揮した出来事をお聞かせください。
小嶋このプロジェクトは、工期を短縮させるために様々な角度から検討を重ね、土木・建築・舗装とほぼ全ての工事を同時進行させる提案からスタートしました。その中でもやはり土木工事は、先陣をきって道を切り開いていく役割でした。今回のような大規模土工事には非常に慣れていますので、信頼できる大型土工のスペシャリストを集めて取り組むことができました。
鶴谷建築工事は、建築物としての難易度より立地条件などの施工条件の難易度が非常に高いと感じました。工事が始まる前に、現地調査で小嶋さんと二人で山の上まで登ったことがあり、頂上付近で「この下がクラブハウスです」と言われ、本当に建築工事ができるのかと不安になったことを覚えています。
小嶋我々が今いるこの場所は30mくらいの山だったのです。
鶴谷崖に面している場所や強固な岩盤を相手にしながら、土木工事と同時に建物を建設するには繊細な調整が求められます。厳しい条件下でグレードの高い建物を施工する難しさはありますが、これまでの経験や実績が強みとして発揮できたのではないかと思います。
伊藤舗装工事の役割、あるいは使命と言ってもいいかもしれませんが、それは道路舗装をしっかりと仕上げることに尽きます。前田道路はコースの平坦性を向上させるために使用する建機を自社所有し、その機体に慣れたオペレーターが職員として在籍しているため、安定して高い技術力を発揮することができます。今回のプロジェクトで難関だった縦断勾配20%への挑戦については、私もですが前田道路としても経験したことがなく、発注者も会社も一丸となって舗装の検討会で議論を重ねました。
平面、直線、曲線の精度を極限まで高めるためにICT建機も駆使して三次元で管理できたのが良かったと思います。また、当社は合材プラントを各所に持っているため、材料をすぐに納品できる環境も前田道路ならではの強みだと自負しています。
小嶋今回のプロジェクトでは、インフロニアグループでICTデータの連動ができたというのが大きいですね。
前田道路さんは試験場の中に今回のプロジェクトと同じ勾配を作り、何回も何回も試験をされていました。私も見に行きましたけども非常に異常な光景ですよ。これほどのこだわりの詰まった舗装は他にないと思いますし、発注者も非常に喜ばれていました。また、全国各地にプラントがあるからこそ、一日であのストレートを打設しきっているんですよ。
前田製作所には、テールアルメ工法※で補強土壁を立ち上げていく工事のために、舗装より前の段階で参加していただきましたね。
伊藤盛土の転圧という非常に重要な部分です。
石田前田製作所の役割は安心して使っていただける機械を提供することです。設計からアフターサービスまで一貫して手掛け、特殊な機械やプラントなどオーダーメイドで様々な試験を重ねるため、幅広く対応できるところが強みだと思っています。
機械を自動で制御させるためには新しい試みが増え、制御が安定するまでかなり時間がかかります。今回のような試作機を現場で用いることができるチャンスはインフロニアグループで取り組んでいるからこそだと思っています。
今回の場合、土木・建築・舗装事業で各々データを入力して頂き、当社はそのデータを受けて機械が動けるエリアを識別し、プログラムにリンクさせていきました。
なかなか機械メーカー単独で新規開発は難しいですが、インフロニアグループで繋がることでチャレンジできる機会が増えるところにシナジーを感じています。開発した機械を使っていただいてしっかりと活用できたというところや、新しい技術を試させていただきながら一緒に取り組むことで知識を得られたことは、非常に大きな成果だと感じています。
伊藤私も同じグループだからこそ、良い舗装を作り上げられたと思っています。〝どういう舗装を目指していくか〟発注者含めてテストセンターなどへ足を運び、グループ全体で目標を共有できたからであり、グループ一体の相乗効果の現れだと思います。
鶴谷今回のプロジェクトは、工事期間が通常4~5年かかるものを3年で完成させる計画でした。一緒になってプロジェクトを成功させるために、グループ内で譲り合い、助け合いながら調整していくことが重要だと感じていました。相乗効果は、単に集まれば効果が1.5倍、1.2倍になるものではなく、様々な条件によって左右されるものだと思います。インフロニアグループ同士、知った仲だからこそ、お互いの技術力を信頼でき、リスペクトし合えたことで高いレベルでの調整力を発揮できたと思います。
小嶋鶴谷所長は序盤、土木工事真っ最中に建築工事の資材を運搬するところから苦労されましたよね。
鶴谷まったく何もない、道もないところで、水や電気、車両動線や作業通路などを整備するところからでしたから。なかなか経験できないことだと思います。
小嶋舗装工事も苦労されたかと思います。どうしても舗装は最後になるため、土木工事や建築工事が押してくると舗装工事にしわ寄せがいってしまう。
伊藤工程が厳しくなることも想定していましたが、譲り合い・助け合いの精神でやり切ることができたと思います。
小嶋発注者の要望を叶えるために、同じグループだから団結して最後は笑って終わらせることができたのかなと思いますね。
※テールアルメ工法:補強土壁工法のひとつ。土と補強材との間の摩擦力による拘束効果を期待する工法。──このプロジェクトが社会・地域・環境に与える影響や施工にあたって配慮された点をお聞かせください。
鶴谷この敷地は飛行機からもよく見えます。気にして見ている方は電話をくれたりして、この施設に興味をもった方がたくさんいる印象があります。施設内には、ヘリポートもあるのでそちらを利用した方の来場も今後増えるでしょう。また、地元の方をお招きしたドライビングクラブのイベントが南房総市の協力を得て開催され、地域の活性化に繋がっていると感じます。
小嶋アジア初というものにインフロニアグループとして取り組むことができたことは、とても効果があると思います。施設ができたことで地域にも新しい人の流れができてくると思いますし、インフロニアグループとしてもこの地域で次の仕事へ繋げることもできるのではないかと。今回地元の協力会社さんにもたくさんお世話になり、この縁を大切にしていきたいですね。
石田このように地域で求心力のある設備や施設ができれば当然、人流が増えるだけではなく雇用も生まれます。日本全国で同時に活性化を必要としている地域がたくさんあるため、今回の経験を武器に新たな地域での活性化に貢献できるのではないかと思います。
小嶋地域や環境に配慮していることとして、工事着工前からこの地域には希少動植物がいるという情報があり、事前に専門の方によって区域外の元々の生息環境と似た環境へ移植されていました。しかし、工事を進めていく中で、残された生物が発見されることがしばしばあったため、区域内にビオトープを作り生息域を確保しました。
また、大型造成工事で大切なのは、下流域に濁った水が流れてしまうことのないよう濁水問題への対策です。初期の段階では沈砂池※を何段も作り、途中途中で濁水を取るようなフィルターを入れて、下流域に迷惑をかけないように対策を実施していました。特にここの下流には土地改良区があり、その方々にも工事着工前に対策の説明をさせていただき、工事が始まってからも区長や土地改良区の理事長など地域の方々とのコミュニケーションを大切にしています。
伊藤地域への配慮と言えば、工事序盤はどうしても車が泥のところに入ってしまうので、タイヤ洗いが大変でした。そのまま場外に出ていくと地元の方に迷惑をかけてしまうので、みんな一生懸命タイヤ洗いをやっていました。
鶴谷洗車渋滞が発生していましたね。
※沈砂池:水の中に含まれている大きなゴミや砂を沈ませて取り除くための池。──プロジェクトのやりがいや達成感、現場の見どころ(技術の光る匠の技等)はどのようなところでしょうか。
小嶋本当、達成感はとてもありました。想像以上に切り立った山だったので、中に入っていくのも本当に大変でした。南側の一か所しか入口がなく、工事着手のときは、人が一人歩けるような道幅しかないところから道路作りをスタートしていきましたので、非常に難しい工事になるなとは感じていました。指定した工期の中で建築工事、舗装工事を同時に動かしながら、かつ安全に施工を進めていくことは、同じ土工事量の工事と比較しても格段に難易度の高いものです。様々な難所を乗り越え計画通りにやりきることができたことは、非常に大きな自信になります。
鶴谷この現場の担当になることが決まった時、建物の種類が多く、グレードもかなり高いものであったので地元の協力会社さんだけでは難しいと判断しました。今まで経験して得た人脈を最大限発揮し、1日最大で建築作業員は350人ほどに協力いただき今回の厳しい施工条件下で、よく完成することができたなという達成感があります。
石田我々も、難しい局面もありましたが、最終的に新しい建機を使っていただくところまで持っていくことができたことに、達成感を覚えました。今回の新しい試みから得た学びを活かし、さらなる技術開発を目指していきます。
伊藤舗装工事は、平坦性や乗り心地に重きをおき、最高級の舗装を問われる現場だったので、そういう高い精度が求められた現場に携わることができ、達成できたことは大きな成果だと感じます。
そして、何よりコースを見ていただきたいですね。縦断勾配が通常の道路とは全く異なるものなので、そういったところを体感していただいたり見ていただけたら嬉しいです。
250km/hくらいで走っていただけるとよくわかると思いますが……。
小嶋そこまでのスピードでなくとも、普通の車で走っても気持ちいいですよ。
鶴谷建築は、建物全般はもちろん見どころですが、「どうやったらあんな場所に建てられるのだろう?」という驚きを是非感じてほしいですね。アクセス道路から登ってきたときに崖地に建つ建物。崖が結構えぐれていて建物のほうが崖からせり出しているように見えるので、初めて見た方が「どうやって建てたの?」と驚かれる場所です。また、あまり目立たないですが、そのコンクリートの打ちっぱなし部分も注目です。本実(ほんざね)と言い、杉板の模様を見せている打ちっぱなしと、誰もやったことのない竹板模様の打ちっぱなしで仕上げています。一番苦労したところでもあり、普通であれば型枠をセパレーター※で挟み込み締め付けてコンクリートを打ち込みますが、今回は意匠的な理由からそれを使わずに打設しています。「どうやって打ったの?」と聞かれることも楽しみにしているのですが、山の上にこんな高いグレードの建物が建てられるのかという、私たちの挑戦している部分を是非見て頂きたい。
小嶋私は土木工事担当ですから、端から端まで全体を見てもらえればと思います。上空からドローン撮影しても、とても美しいコースです。この施設は、ドライビングコースだけでなく、高級感あふれるラグジュアリーなクラブハウスが併設され、お子さんも楽しめるファミリーラウンジや温泉・プールも完備されていて、運転する方だけでなく家族で楽しめる空間となっています。
今後、さらに充実したアクティビティ施設やコンテンツも計画されているようで、この施設全体のアップデートには目が離せません。インフロニアグループとしての総力を結集したプロジェクトを継続し、様々な地域に貢献していきたいと思います。
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